新大統領の動向に気を揉んでいるのはグローバル企業だけではない。立教大学で「スポーツビジネス論~メジャーリーグの1兆円ビジネス」の教鞭を執る古内義明氏(スポーツジャーナリスト)が指摘する。
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新年早々、厳戒態勢が敷かれるマンハッタンのトランプタワーに、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーと、ヤンキースのランディ・レビン社長が姿を現した。ドナルド・トランプ大統領との会談内容は明らかになっていないが、野球界の「現状と未来」について話し合いが持たれ、トランプ大統領が何らかの私見を示したことは想像に難くない。
先日の就任演説でも、「アメリカ第一主義」を掲げたトランプ大統領。とりわけメキシコ国境に壁を建設する公約に象徴される「移民政策」は、野球界にとっても大きな懸案事項なのである。
昨年の開幕時点で、メジャーでプレーする外国籍選手は27.5%に上り、バド・セリグ前コミッショナーが押し進めてきた「国際化」は確実に成果を上げている。特にメキシコは国別ランキングで第5位となる12名のメジャーリーガーを送り込む人材供給源の常連国。重要な友好国であり、過去数えきれないほどのスターを輩出してきた。
さらに、メキシコは1996年、史上初めて海外公式戦を開催した歴史的な場所なのだ。ワールドシリーズの海外視聴数でも首位の座にいるし、マンフレッド・コミッショナーは中南米マーケットを意識して昨春、首都メキシコシティにMLBの支社を開設したばかりだ。
気になる点はまだある。バラク・オバマ前大統領はキューバとの国交正常化交渉を開始し、昨年には首都バハマで、ラウル・カストロ国家評議会議長と野球観戦をした。これまでキューバの選手と言えば、亡命をするしかメジャーでプレーする道はなかったが、昨季は国別ランキングで第2位に躍進する23人のメジャーリーガーを誕生させた。しかし、トランプ大統領が就任当日にオバマケアの撤廃に向けた大統領令に署名したように、キューバの外交政策も見直す可能性すら取り沙汰されている。
マンフレッド・コミッショナーは、「歴代大統領とはこれまで非常にいい関係を構築してきた」と言及したが、トランプ政権が外国籍選手に対する労働ビザに対する強硬姿勢を明らかにすれば、メジャーのグローバル戦略は大きな転換期を迎えることになるかもしれない。かりに、アメリカ人労働者を優先して雇用するよう義務付けた場合、メジャーよりも外国籍選手の占める割合の多いマイナーリーグはビザの発給を制限されることになるだろう。
MLBは生き残りをかけて、ロンドン、東京、シドニーなどに支社を構え、国際化に舵を切り、日本を始めてするアジア、そしてヨーロッパからもメジャーリーガーを誕生させ、国外での売り上げを伸ばしてきた。今年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシックはその象徴である。
マンフレッド・コミッショナーは、「今後何が起こるのかを静観する姿勢」と話すが、トランプ大統領がこの先どんなメッセージを野球界にツイートするのか。戦々恐々としているのが本音だろう。