◆医師に相談か自分でやめるか
この原則を前提とした上で、薬をやめるには種類ごとに3つのパターンがあるという。第1は「理論型」だ。
「降圧剤や糖尿病薬などの生活習慣病薬は、薬効よりも副作用のほうが上回った時点で医師にやめどきを相談するべきです。たとえば、もともと高血圧だった人でも高齢者になると、自然と徐々に血圧が下がってくる人が多い。
しかし、現実には80~90歳代になって血圧の上(収縮期)が100を下回っているのに、2~3種類の降圧剤を飲んでいる人がたくさんいる。血圧を下げることは生命力を下げることで、仕事や生活の意欲が低下したり、性欲が減退したりと、生活の質が落ちることがある。降圧剤のメリットをデメリットが上回った時点で、理論的に薬を減らすべきです」
糖尿病薬についても、低血糖の状態が続くと認知症のリスクが上がり、意識を失って転倒すると命に関わることがある。低血糖の発作が起きたら、薬を減らしていくタイミングだ。もちろんその場合、食事療法や運動療法に励む必要があることにも留意したい。
第2のパターンは、やめどきを患者自身が決める「自己決定型」だ。
「たとえば抗がん剤は、患者さんの生活の質を守るために『いつやめるか』が議論されるべきなのですが、どうしても医師の側は最期まで続けようとする習性がある。死亡直前30日前まで抗がん剤など積極的治療を受けている患者は実に7割にのぼると言われています。ですから、抗がん剤に関しては患者さん側からやめどきを切り出したほうがいい」
抗がん剤をやめたことで体調が回復し、諦めていた仕事や旅行ができ、予想以上に長生きする人も現実にいるという。
高脂血症を改善するコレステロール薬は、LDLコレステロール値を2~3割下げ、心筋梗塞の発症も3割ほど抑えられるというが、長尾氏によればそれらの薬効は食事療法の効果とあまり変わらないという。
「高齢者へのコレステロール薬投与は、筋力や心身の活力低下により寝たきりを誘導することがある。80歳以上で元気なら、機械的に薬を中止してもいいのではないか」
第3のパターンは、薬物依存に陥りやすく徐々に減量するしかない「依存脱却型」だ。精神安定剤や睡眠薬など、一度飲み続けたらやめるのが難しい薬である。
「精神安定剤や睡眠薬は禁煙と同じようなもので、医師よりも患者さんの側が服用をやめられないことが多い。マラソンのコーチが選手の横について練習するように、医師に相談しながら一緒に目標を立てて、薬の量を半分、4分の1と徐々に減らさないと断薬は困難です」
※週刊ポスト2017年2月3日号