がんの放射線治療は、細胞内にある酸素によって効果を発揮する。がん細胞は、直径2~3センチになると毛細血管から遠ざかる部分が酸欠になり、その効果は2分の1に、さらに5センチを超える大きながんでは、酸欠細胞と抗酸化酵素だらけとなり、放射線治療の効果は3分の1程度に低下する。
その大きな固形がんに対する放射線治療の効果を高める新治療が、酵素標的・増感放射線治療KORTUC(コータック)だ。
考案した兵庫県立加古川医療センターの小川恭弘院長に話を聞いた。
「骨肉腫や悪性黒色腫など一部の悪性腫瘍は、放射線を照射しても細胞はなかなか死にません。骨肉腫などには、抗酸化酵素ペルオキシダーゼが多く、放射線に抵抗性があるのです。人間が放射線に影響されるのは、細胞核のDNAが障害されることが原因とされていました。しかし、それ以上にリンパ球に抗酸化酵素がないため、放射線により細胞内に過酸化水素が増加し、細胞死することの方が大きな原因だと気づいたのです」
ヒトが酸化することは、イコール老化や細胞死を意味する。健康人にとっては、抗酸化酵素が活性化することで、酸化を防ぎ老化を抑制することになる。がんも大きくなると酸欠細胞と抗酸化酵素が増えて放射線治療に抵抗するが、抗酸化酵素の働きを弱め酸化を促進させ、そこに放射線を照射すると治療効果が高まる。
実は、抗酸化酵素の働きを抑制する物質が、生体でも産生されている。身体の3分の2は水(H2)だが、放射線が当たると活性酸素ヒドロキシルラジカルが発生し、それが2個集まり、H2O2(過酸化水素、この3%水溶液をオキシドールという)となる。つまり、体内では過酸化水素が常に産生され、酸化や殺菌作用を担っている。
そこでオキシドールをがんに注射して抗酸化酵素を不活性化し、酸素を発生させた後に放射線を照射すれば、がん細胞がアポトーシス(細胞死)する。これがKORTUCの仕組みだ。