前置きが随分と長くなったが、当の山田さんは佐藤さんの回答についてこう話した。
「佐藤さんが羨ましいですよ。世間体を気にせず、自由にモノが言える。90才を超えて失うものがない人の特権ですね。一方、こちらは大学人であり、現代の状況からすると、私のような回答をせざるを得ない。回答者としてもリスクを冒した回答はできないんですよ。佐藤さんは『そんなの直接言えばどうだ』と仰るけれども、相手がもしも変な人で、逆襲された時に、私は責任を取れないじゃないですか」
かつては学生の生殺与奪の権を握った絶対者だった大学の先生だが、今や、ひとたび学生やその親からクレームが入れば、教職を追われかねないのだという──。
「私も若い頃は、指導教官に『こんな論文しか書けないなら大学院をやめてしまえ』と随分言われたものですが、今やそんなことを言ったら、ハラスメントになる。本人はもちろん、その親も文句を言ってきます。だから、文句を言われないように行動しないといけないので、大学の先生も息が詰まっている感じです」
そんな状況は大学に限らない。子供の声はうるさいと言われ、親のしつけにも批判の声が殺到。誰しも、何から何まで周囲を窺い、ビクビクせざるを得ない世の中なのだ。
「だから私も本当は、佐藤さんのように本音を言えたら楽だと思いますし、社会はもっとうまく回ると思いますよ。とにかく文句を言われたら、訴えられたらということで、みんなどんどん萎縮していますから、個人にとってマイナスなだけではなく、社会全体にとってもマイナスになっていると思います」(山田さん)
本書のベストセラーは、そんな窮屈な世の中の裏返しでもある。だからこそ、その読後感は清々しく、「いちいちうるせえ」と心の中で毒づくほどの元気がわいてくるのだ。
※女性セブン2017年3月2日号