日本における脳卒中の原因の約3分の2は脳梗塞であり、最近は30~40代の若い世代での発症も徐々に増加している。脳卒中は、障害を受けた脳と反対側の半身にマヒが残ることが多く、筋力低下予防と運動能力回復を目指し、できるだけ早い時期からリハビリテーションを行なうことが常識となっている。
しかし、障害された脳組織は発症後、2~3週間は回復するが、リハビリをしても軽いマヒだと約1か月、重症では3~4か月経過すると治療効果が止まり、それ以上はよくならないことが問題だった。
慢性期の上肢マヒに対し、経頭蓋磁気刺激(TMS)と集中的リハビリテーション併用治療を開発した、東京慈恵会医科大学付属病院副院長でリハビリテーション科の安保雅博教授に話を聞いた。
「頭の運動野に、磁気刺激による渦電流を流すと運動器(手足など)が動くことは、以前から研究されていました。私は脳卒中のモデルラットを使い、脳のどこでマヒが回復するかを証明しました。その部分の機能を高めるためにfMRIの評価に基づく磁気刺激をしながら、マヒが軽減する方法を見つけ、臨床応用へと繋げました。磁気刺激とリハビリの併用で、軽度の上肢マヒであれば、よりスムーズに動かせるようになります」
大脳は左右に分かれて繋がっている。脳卒中でどちらか片方の脳が障害されると、障害のない側の脳が頑張って過剰に働き、障害のある脳を支援しようとする。そのため左右のバランスが崩れる。例えば、左脳が障害されて右手にマヒがある人が右手を動かそうとすると、fMRI画像では左脳が活動しているのと同じくらいに、右側の脳が活発に動いているのがわかる。そのとき右手だけでなく、実は同時に左手も少し動いている。
磁気刺激は、この左右のバランスを調整するために実施する。過剰に働いている障害のない側の脳には、1秒1回の磁気刺激をする。または障害を受けている側の脳の働きが悪い場合は、1秒間に10回の磁気刺激をする。どちらかを1日2400回施行し、適切なリハビリテーションを併用する。
「2週間の入院期間の1週目で脳のバランスを調整し、2週目で脳に正しい動きを刷り込みます。こうして身に付いた訓練方法を帰宅してからも実践すれば3年経過しても、その効果を持続できる人もいます。1725人に対しての臨床研究論文で、1人の脱落もなく、有意差をもってマヒが改善しました」(安保教授)
この治療は、脳卒中片マヒ患者の上肢の機能をみるフーゲルマイヤー評価法(66点満点)で、47点以上の患者に効果が高い。19点以下は重症で、ほとんど動かないため、磁気刺激の対象とはならない。
●取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2017年3月3日号