芽室町がこのような取り組みを始めたきっかけは、障害児を抱える母親の「私が死んだらこの子はどうなるのか」という苦悩の声だった、と宮西義憲町長は言う。
「あの町なら、働いて生きていくことができる」
障害を持つ人たちやその親たちがそう思うような町にすることで、「障害者=一生支援してもらう」という図式が変わっていく。自分の能力を活かし、いつか税金を払えるようになっていく。そんな可能性がある町にしようと思った、と宮西町長は語った。
このプロジェクトは、芽室町と2つの企業が動かしている。一つは、食品トレー容器を作り、それを回収してトレーにリサイクルしているエフピコという会社。エフピコグループでは370人の障害のある従業員が働いているという実績をもっている。障害者雇用率は14.56%と高い。
もう一つは、総菜専門店のクック・チャムという会社。愛媛に本社を持ち、全国展開している。障害者の雇用を拡大したいという思いと、十勝平野に自社農園を持ちたいという思いがあった。
それぞれの思いが重なり、2012年12月、プロジェクトが本格スタートした。「九神ファームめむろ」のほか、「ばぁばのお昼ごはん」という食堂もできた。ここでも生き生きと働く障害者の姿があった。子ども連れの客が来たら、子ども用のいすを出すなど、接客は堂に入っている。
また、就労キャリア教育環境事業も始めた。働く障害者自身がアテンドし、農業体験や食品加工、調理接客などを体験できる。将来、働きたいと思っている障害のある子どもや、働き方、生き方にもがいている人などに参加を呼び掛けている。こんな話を芽室町長から聞いて、ぼくはある偶然に驚いた。