5年前、ぼくは『ニッポンを幸せにする会社』(集英社)という本を書いた。そのなかで、鎌倉投信の社長と対談している。投資の果実は「資産形成×社会形成×豊かな心の形成」などと、一風変わったことを言う信念のある投資信託だ。社長は鎌田恭幸さん。鎌田・鎌田の対談で話題に上ったのが、偶然にもエフピコの話だったのだ。
「日本には、思わず子どもに自慢したくなるようないい会社がある。投資を通じて気づいていただくのも、私たち投資運用会社の一つの役割です」という言葉が印象的だった。
鎌田社長には今年1月にも、ラジオ番組「日曜はがんばらない」(文化放送、毎週日曜午前10時~)に電話で出演してもらった。そこでは、情報・通信業の「サイボウズ」の話題が出た。ITベンチャーとして創業したが、働き方がめちゃくちゃな、いわゆるブラック企業で、離職者が続出。そこで、社内の働き方改革を推進し、社長自ら育児休暇を3度取得するなど、自由に働けることで離職率30%から3~4%へと激減したのだ。
社員を大事にすることを第一にし、しばらくの間は利益を出さないと決め、株主の了承も得た。一部の投資家は去っていったが、生産効率もアップして利益も増し、社員を大事にする会社に一大転換したことで新しい投資家を獲得したという。鎌倉投信は、そういう会社を応援している。
鎌倉投信の商品「結い2101」は、目先の利益を期待するものではない。名前には、100年先を見据えて子や孫のために残っていてほしい会社、これからの社会に本当に必要とされる会社、ファンとして応援したくなるような、いい会社に投資するという思いが込められている。
1万円で運用をスタートしたが、現在1万6000円台。鎌倉投信を「美談」「絵空事」と揶揄する声もあるようだが、年間平均10%前後の利回りと、十分に利益を出しているように思う。利益第一主義にならなくても、信念があれば、利益はついてくるのだろう。
そんな鎌田社長の名言は「お金には思いを伝える力がある」。
お金を生かすも殺すも、人次第。あたたかな社会のために、あたたかなお金を使いたい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『遊行を生きる』『検査なんか嫌いだ』。
※週刊ポスト2017年4月7日号