ぼくは、命はその人のものだから、その人が決めることができるようになったらいいと思って、医師を続けてきた。だから、橋田さんの心情はよく理解できる。ただし、実現するのはとても難しい。日本では、安楽死を認める法律はない。安楽死を法制化するには、議論しなければならない問題が多すぎる。
橋田さん自身も対談で、「遺言状に認知症になったら安楽死させてくださいと書いても、お医者さんにはどこで線引きしていいかわからないですよね」と、判断の難しさについて言及した。
橋田さんのように安楽死を望む背景には、日本の死の質の低さがある。日本の死の質は、世界80か国中14位と先進国のなかでは低いといわれている。
痛みや苦しみをコントロールできているか、家族に感謝の気持ちを伝え、きちんと別れができているか、本人が自分の命のあり方を自己決定しているか。多面的にチェックした結果、日本の死の質は、あまり高くないと判断されているようだ。
日本では、食べられなくなったとき、70%の人が胃瘻を置いたり、鼻から管を入れたり、太い静脈から高カロリー輸液を行なったり何らかの栄養補給を実施している。しかし、本人の意思も確認せず、食べられないからといって自動的に栄養補給をするのは、ただ命を延ばすだけで、かえって本人の苦痛になるだけということが多い。