大河ドラマや歴史小説などでとりわけ人気があるのが戦国武将の逸話。そこで語られる武将たちのエピソードは常に勇壮だが、実際には人間臭い一面もあったようだ。伊達政宗が部下の青木掃部・佐々若狭に宛てた手紙は、酒の席で部下の頭を叩いてしまい反省するものだった。
【現代語訳】
〈一、先日酒を飲んだ際、(蟻坂)善兵衛の言い訳が気にさわり、折檻した。しかし、若輩とはいえ小姓頭をも命じた者に、酒を飲んでいたとはいえ、脇差の鞘で頭を打ったことは、自分の過ちであった。酒を飲むと、君臣の関係を忘れてしまいがちになるため、しかたがない。頭の傷が治ったら、また召し使うので出てまいるように伝えてほしい。(以下、略)〉
若くして東北地方のほとんどを支配した独眼竜・伊達政宗は筆まめだったことで知られている。一般的に戦国武将の出す手紙は、戦場での指示や報告の内容が多いが、政宗の場合は私信も数多く残る。
この手紙は小姓頭2人宛ての指示書だが、酒の席で頭を小突いてしまった部下への謝罪が書かれているのが面白い。酔った勢いでと言い訳まじりではあるが、素直に反省している。
「武将にとって部下とは威厳を見せる相手。たとえ自分が悪くても謝るなどという弱みは、なかなか見せないものです」(静岡大学名誉教授・小和田哲男氏)
豊臣秀吉や徳川家康といった天下人に度々謀反を疑われながら生き延びた政宗の処世術は、こうした周囲に対する気配りだったのかもしれない。
■取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2017年5月5・12日号