映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、5月公開の映画『家族はつらいよ2』で熟年離婚の危機を乗り越えた夫婦の妻を演じる吉行和子が、60年前に踏んだ初舞台について語った言葉を紹介する。
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吉行和子は劇団民藝に所属、当初は女優になる気はなかった。
「子供の時から体が弱くて、友達もいなくて、学校にもあまり行けないから、いつも本ばかり読んでいました。本の中で登場人物はこういうことを喋っているけど、こういうことも言うんじゃないかと頭の中で考えるのが私の遊びでした。
そんな中学三年の時に劇団民藝の舞台を観たんです。難しい芝居でしたが、『本をめくるみたいに話が進みながら、自分が一人でやっていたことを、本当の人間がやっている』という世界に出会えました。それで、『私はこの劇団に入る』と思いました。
その時は女優になるなんて、思ってもいませんでした。体も弱いし、教室で喋れないくらいの引っ込み思案でしたから。
何か仕事があるんじゃないかと思って観ていると、次の幕で衣装が変わったり、カーテンが変わったりするのに気づいて、あれならできるのでは、というのが最初のきっかけなんです。
劇団には偶然入れまして、裏方でやっていきたいと言ったのですが、『芝居とはどういうものかをみんなと勉強しなさい』ということで民藝の俳優研究所に通うことになりました。勉強会ではセリフを言う機会もありましたが、特別に上手いどころか凄く下手で。それでも、勉強のために一応やっていたの」
女優として初めて舞台に立ったのは一九五七年の舞台『アンネの日記』の主人公役だった。