国内

平成の花咲かじいさん 1万5000本の山桜が全国で満開

富永武義さんが全国へ贈った山桜の苗木は約1万5000本(写真/アフロ)

 人の手が入っていない、天然の桜が、山桜。平均寿命は200~300年といわれ、なかには500年を超える長寿桜もある。そんな山桜の花言葉は「あなたに微笑む」。今年も各地で、あたたかい笑顔が咲き乱れた――。

 今から20年前、1997年1月、朝日新聞の「声」欄にこんな投稿が掲載された。

《いつか花咲け わが山桜の苗

 自宅から二キロほどの所に山桜の大木があり、毎年春には、若葉と花が美しかった。一昨年の夏、この桜の下を通ると、種が一面に落ちていた。ポリ袋を持って行き、三リットルくらい集め、大部分を自分の山や公園の裏の山にまき、一部分を苗床を作ってまいておいた。翌年の三月になると、芽を出した。五センチくらい伸びた苗を植え替えて、肥料をやった。秋には一メートルを超すほどに成長した苗が百五十本も育った。会う人ごとに「山桜を植えないか」と勧め、今までに十人が植えてくれた。

 この桜が花を咲かせるのは、十年か十五年後だろうが、とにかく二十一世紀になってからだ。何本かは二十一世紀の中頃に大木になっているかも知れない。

 ただ、私が生きているうちに花が咲かないことだけは確実である。それでも私は山桜を育てたい。昨年夏には、前年の二倍の広さの苗床にまいた。

 この春には、三百本くらいの苗が育つ予定だ。二十一世紀の人が見てくれたら満足であり、花盛りの姿を夢みながら、往生できたら最高だと思っている》

 投稿者は、宮崎県宮崎市在住の富永武義さん。40年間、生物の高校教師として教鞭を執とった後、地元保育園の園長や理事として20年間務め上げた。そして84才から、山桜を種から育て、苗木を無償で全国へ贈る活動を始めた。

 そこから約16年、100才を迎える2011年までに全国に届けられた苗木は、約1万5000本。多くの人たちから親しみを込めて「平成の花咲かじいさん」と呼ばれた富永さんは、この3月20日、老衰のため105才で亡くなった――。

 畑や空き地が点在する住宅街に建つ富永さんの生家。畑の片隅には、富永さんが手入れをしていた日向夏が実をつけ、オレンジのバラが彩っている。そして庭には、紅白のツツジが咲き誇る。

「このツツジは先代からずっとあるんですが、父がよく手入れしていました。この香りがいいんですよね。父は、『21世紀になにかを遺しとかなきゃいかん』と口にしていました。それが、山桜でした」

 そう言って、娘の泰子さん(74才)は目を細めた。

◆“山桜の君”と呼ばれて

 山桜は山地に野生する日本の伝統的な桜で、花が散ってから葉が開くソメイヨシノと違い、淡紅色の花と葉が同時に開く。春になると花が咲き、5~6月頃に実ができる。富永さんは実を集めて種を採り、乾燥しないよう地中で保存していた。翌年2月になると苗床にまき、1m以上の苗木に育てていた。泰子さんが言う。

関連キーワード

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン