でも、そこは階級社会の警察ドラマ。広い部屋に大きな机を置きデフォルメしているからこそ、表情豊かに演じる香川照之の捜査1課長という権力者の前で、長谷川演じる香坂は、指先までピンと伸ばし直立不動、表情をあまり変えず、礼をする時は90度という演技が、権力格差を際立たせていると言える。
権力や社会的格差がある者がやり取りする場合、権力を持たない者は持つ者に対して距離を取りやすく、否定的な表情を避け、場合により権力者の前で直立になりやすいと、心理学者のマイルズ・L・パターソンが言っている通りだ。
さてこのドラマ、「あれ?」と思ったことがひとつある。捜査について話すシーンなどで、長谷川だけでなく、岡田将生演じる刑事で捜査1課長付運転担当の山田春彦や、安田顕演じる芝署刑事の渡部久志など、主要キャストがしょっちゅうポケットに手を入れているのだ。
この仕草は、後ろめたい気持ちがある時や隠し事がある時に出やすいと言われる。殺人証拠を隠し、警察情報を流す春風亭昇太演じる三笠署長も、香坂の前でポケットに手を入れていた。これは隠し事をしていたためとわかりやすい。
不安や自信の無さを隠すという意味で、ポケットに手を突っ込みやすいという説もある。所轄の若手刑事が、進まない捜査状況を聞きながら香坂の前でポケットに手を入れているのは、捜査への不安や弱気な面を出しているせいであろう。
それが癖という人もいる。安田演じる刑事渡部は、いつもポケットに手を入れている。ちょっと猫背で泥臭さはあるが正義感は強い。
またこの仕草は警戒している、本心を見せたくないという気持ちの表れの場合もある。岡田演じる東大卒なのにノンキャリの山田は、自分の感情や本心を表に出さず、ピリピリとした印象の役。どこかで常に香坂と対峙し警戒している感を表現しているのだろう。
実際、刑事がそんなにいつもポケットに手を入れているのか、警視庁の元刑事さんらに聞いてみたが、そんなことはないらしい。捜査指揮する時にそんな仕草をするのも稀有という返事もあった。
だが、長谷川演じる香坂は部下を前に、ポケットに手を入れ捜査状況を話すシーンは度々あるし、オープニングのタイトルバックのシルエットでもポケットに手を入れているように見える。焦りやいらだちを部下に見せないためか、それとも心を落ち着かせるためか…?
香坂の手がいつポケットに入らなくなるのか…最終回まで見届けよう。