相撲ブームが沸騰している。そこで、「謎のスー女」こと尾崎しのぶ氏が相撲コラムを執筆。今回は彼女が実際に街中で目にした力士たちのプライベートにまつわるエピソードを紹介する。
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丸ノ内線に乗ると、貴ノ岩を思い出す。八年前の夏。居眠りをしていると、甘いにおいがしてきた。見回すと、車両の遠くに浴衣の男がいた。おお、力士だ、と目が覚める。丸ノ内線を利用すると思われるのは、南阿佐ヶ谷の放駒部屋か中野新橋の貴乃花部屋。今は中野坂上駅を出発したところである。方南町からの丸ノ内支線を乗り継いできた貴乃花部屋の力士であろう、と推理する。
彼はまだ髷を結えないザンバラ髪だった。一月発行の名鑑で短髪の力士をさがす。候補は二人。まず貴天秀を見る。この丸顔ではなかった。もう一人を見て、にやりとしてしまう。バーサンドルジ。土俵では知っていた貴ノ岩。そう、この岩のような輪郭、浴衣に包まれていてもわかる岩のような身体だった。
弟子の携帯電話の所持については、各部屋の師匠にゆだねられているという。貴乃花部屋での規則も、当時三段目の貴ノ岩が携帯電話を持っていたのかどうかも知らないが、電車の中ではメールなのかゲームなのか携帯電話をいじくりまわしている若者がほとんどの中、彼は正面を向いて吊り革をにぎっていた。そのまっすぐな背中を、今も忘れられない。