すべて「人の手」でこの里山も樹木葬墓地も成り立っているのだと気づく事始めだった。右に左に、新緑が萌える桜やモミジ、ピンクの花が咲くヤマツツジなどが目に入り、なんと美しい世界なんだろう。
「光が射して、明るいでしょう? 元は細い木が密集している暗い藪だったんですが、間伐し、下草を刈り、落ち葉をかき、もうすぐ20年…」
そう話しながら、千坂さんは折れて地面に落ちた枝をひょいと拾い、「これは外来種」と小道にはみだした草を抜く。
緩やかな傾斜を登って行く。緑地の中に、点々と、縦長の素朴な木札が立っているのが目に入った。それぞれの木札に、黒マジックで番号と名前が手書きされている。もしや埋葬の印ですか?
「そうです。半径1mの円をお1人の区画としています。縦長の木板に書いているのは、生前契約され、まだ入っていらっしゃらないかたがたの名前です」
ところどころに、やはり名前を書いた横長の木札も目にとまる。夫婦らしき2人の名前が並んでいるものもあった。その木札のすぐ後ろには、低木が植わっている。
「埋葬されているかたの区画です」
木が墓石の代わり、木札が墓標の代わりなのだ。この里山に自生するウメモドキ、エゾアジサイ、ムラサキシキブなど15種類の低木の花木から、契約者が選び、埋葬のときに植えるそうだ。つまり、小さい木は遺骨が埋葬されてから日が浅く、成長しているところほど、埋葬後の月日が長いということ。しかし、似たり寄ったりの緑地だ。植生の違いも、よほどの専門家でないと不明だろう。木札や墓標木の場所がわからなくならないのかと、素朴な疑問。
「大丈夫です。あれが基準木です」と千坂さんが指差した先に、赤い紐をまきつけた木があった。数mごとに基準木を設定し、そこから方角と距離を測って、区画を台帳に登録しているので、埋蔵場所が特定できるという。「雑草で覆われてしまわないか」とも心配したが、知勝院の9人のスタッフとボランティアで、毎日のように草引きをしているため大丈夫だそう。