そんなときに東京でも雀を見つけて、これだ!って捕まえて。しかけは得意なんでね(笑い)。田舎の雀は米食ってるからみんなぷくぷく太って丸々として、焼き鳥にするとうまいんですよ(笑い)。でもその捕まえた東京の雀が、なんともみすぼらしくて。やせこけてボロボロで、生ゴミがくっついてて、くさいんです。ショックでしたね。で、気づいたんです。これ、おれじゃないか!と。おれもゴミ箱漁ってるじゃないか!と。自分の姿とだぶって苦しくなって、結局、逃がしましたね」
そんな壮絶な下積み時代を経たからこそ、強烈な印象を残す俳優となった。
「すがったり、頼ったり、相談する人がいないわけです。飢えて、未来に夢もない状況で、生きるためには戦わないといけないという追い詰められた状況だった。だからあの頃の自分は飢えた狼みたいでしたよね。食いつくような目も、芝居をしているんじゃないんです。自分が苦しいから叩き出していたんです。でもそれが個性だと言ってもらえるようになった。仮面ライダーも追い詰められた結果、大ヒットにつながったわけで。すべて災い転じて福となす、なんですよ」
今でもハングリー精神は健在。若い俳優と一緒になっても、謙虚に、貪欲に役に対峙する。その全力投球ぶりが、若手を刺激しているのだ。
「そういってもらえると光栄だよね。でも恥ずかしいかな、昔の性分がまだ抜けない部分があって。食べ物を残せないから魚は骨まで食べて頭も残さないし、よくマネジャーにギョッとされてます。そんな男です。はっはっは(笑い)」
●藤岡弘、(ふじおか・ひろし)
俳優、武道家。’46年2月19日、愛媛県久万町(現・久万高原町)生まれ。’65年に松竹映画で俳優デビュー、’71年放送開始の『仮面ライダー』の本郷猛役で一躍スターに。国際俳優としてUSA映画でも主演。『藤岡弘、探検隊』TVシリーズや『せがた三四郎』のCMなど、世代を超え人気を博す。ライダー時代から、国内外のボランティア活動も積極的に行なっている。180cm、82kg。
撮影■関谷知幸 取材・文■辻本幸路