谷村と中国との結びつきは深い。1981年に、アリスとして中国での単独公演を成功させた。聴衆は初めて「生のポップス」を体験したのだ。
その後も谷村は、中国をはじめ、アジアに目を向け続ける。「会場も未整備、現地のスタッフも経験のない人たちばかり。持ち出しも多くて大変だった」と谷村は笑いながら振り返る。
「僕は『音楽でお金を稼いで、いい車に乗りたい』とか、そんなふうに思ったことが一度もないんです。お金を追いかけている人間は、一生お金に囚われる。それより、音楽でいただいたお金は、音楽に還元したいと思ってきました。
アジアに出て行ったのもその一環なんです。持ち出しは覚悟の上。アジアの人たちに、僕の歌を聞いてもらいたかった。素敵なことを体験して、それに感動する人が増えていく世の中のほうが、いがみ合うよりいいよね」
谷村が蒔いた種は、アジアで確実に芽吹き、育っていった。そして今年6月1日に、「中日国交正常化45周年記念」のリサイタルを上海大劇院で開催した。
「中国人だとか、日本人だとかは関係なく、皆、音楽で繋がる。実はこのリサイタルは、5年前の40周年の時に政治的な要素で延期になったんです。でも、“思い”は通じます。こうやって実現するんですから。向こうの人たちからは、『今度は、谷村さんを喜ばせたい』って言われて……」