これらは必ずしも、記者やその質問に関心があるわけではないということを示し、社会的に上にいるのは自分という印象を相手に強めるための仕草である。心理学者のマイルズ・L・パターソンもその著書(『ことばにできない想いを伝える』大坊郁夫監訳)で、地位の高い人は、相手の話を聞く時に、相手を見る機会を少なくすることで、権力を行使できると書いている。
また印象操作は自分一人で、できるものではない。必ず、自分と相手の相互作用、送り手と受け手、両方によってイメージが作られるものである。そのため印象を効果的に操作するには、自分の言動に対して、相手がどのように反応しているのかを見て、周囲への影響を計ることも必要になる。
菅氏は面倒な質問には短くはっきり答え、顔を横に向けて視線を逸らし、有無を言わせず質問を切る。しかし嫌な質問で食い下がってくる記者には、顔を何度も見ながら答えた後、その記者を数秒間、冷ややかにじっと凝視するのだ。時にはその後、記者たち全員を見渡したりもする。
強い視線を送られた記者がどういう反応を見せているかは、想像するしかないが、うなずくか、うつむくか、視線を外すか。どちらにしろ、相手が恭順の意を示すか、対峙する意思がないことを示すまで、鋭く相手を見続けているのではないだろうか。そうすることで相手の言動をコントロールしているのだ。凝視し続けることは、自らの持つ力を効果的に行使するための仕草でもある。
加えて、その記者を意図的に凝視することで、この話はこれで終わり、もうこれ以上、この話題を続けるなと周囲に暗に伝える効果もある。あの目でじっとにらまれたら、思わず口をつぐんでしまいそうだ。記者たちが素早く話題を切り変えるのもわかる気がする。
さて、そんな菅氏のイライラや動揺を、無意識のうちに表していると思われる部位がある。それは演台をつかんでいる右手の指だ。このところの会見で菅氏がイライラし、動揺した場面を見てみると──。
リラックスしている時、菅氏は演台の端に右手を置くか、軽く握っている。だが、返答に気を使う質問だと握っていた指がパラパラと動き出す。さらに面倒な場合は、人差し指が伸びたり曲がったりし始める。前川氏の出会い系バーについて聞かれた時は、演台を握ったまま右手親指がパタパタと動いた。イライラや動揺が強くなるにつれ、親指が動くらしい。
「文書の再調査」について問われた時、動いたのは人差し指。これら文書について「内部告発では?」と聞かれた時は、親指が動き出した。加計学園でなければならなかった理由についても、頻繁にパタパタと親指が動き、演台をつかみ直した。そして、再調査しないのは「隠ぺいでは?」と言われた途端、演台をつかみ直した親指が激しくパタパタと動き出したのだ。
文科省が追加再調査を行うと表明したこの文書。菅氏の“指パタパタ”は、まだまだ止まりそうにない?