もっとも高価だったのはカメラでしたね。1997年のクラスノヤルスク会談に臨む際に橋本さん(故・橋本龍太郎元総理)が「宗ちゃん、エリツィンさんに何を持っていったらいいかな」と訊くので、カメラがいいと答えたんです。
すると、カメラ好きの橋本さんは、自分が愛用している一眼レフを贈るという。だから「総理、何を考えているんですか。カメラの素人が一眼レフを使いこなせますか」と。誰でも撮れる簡単なものがいいと話したんです。
ちょうどその頃、ズーム付きのデジカメが一般に出始めた頃だったので、それを勧めました。というのもね、ロシア人は“下ネタ”が大好きなんです。ソ連時代には楽しみが少なく、男性も女性も下ネタの小話をしながら食事をして盛り上がったわけです。それが彼らのコミュニケーションでもあり、ユーモアでもあり、信頼関係にもつながっていく。そこで「“出たり入ったりする”ズーム付きのカメラがいいんですよ」とね。
実際にプレゼントしたらエリツィンさんが喜んでね。なにしろボタンひとつで、レンズが出たり入ったりするんですから。驚くやら、楽しいやらで。すっかり夢中になって、その後に予定していたサウナが中止になったほど。
ロシアのサウナでは血行促進のために白樺の枝で身体を叩くので、「エリツィンさんはきっといたずらをしてきますよ」と話していたんです。「ひょっとしたら、“握られる”可能性もありますよ」ってね。
橋本さんは、「おい、気持ち悪いなぁ」と嫌がるから、「総理、国益です!」と。エリツィンさんの茶目っ気というか、それは親愛の情なんですから、と。いざ握られたら、“気持ちいい~”って顔をしてくださいよと、そこまで吹き込んでおいたんです。