芸能

瑛太が常連になりたがる「ドラマ調CM」はなぜ有効なのか

住友生命1UP公式HPより

 わずかな時間でも人々に鮮烈な印象を残す「物語」はあるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 いよいよ最終局面に入った今期の連続ドラマ。『あなそれ』『リバース』『小さな巨人』と話題作が生まれてきました。しかし、劇的要素が人の関心を引き寄せるのは、何もドラマ枠だけではありません。今やCMの中においても頻繁に見かけるドラマ的手法。

 具体的なシーンを設定して、役者が様々な役を演じるCMがたくさんあります。中には、繰り返して見せられてもイヤにならず、むしろ何度でもクスっと笑わされてしまったりする、秀逸なものも。

 一例として「よ~、そこの若いの~」というフレーズで始まるあのCMを挙げたい。瑛太演じる、引っ込み思案のサラリーマン・上田一。転勤した馴染みの薄い土地で、庶民的な広東料理屋へ。

 メニューがべたべたと張ってある壁。安っぽいテーブルと椅子。忙しく働くコックたち。ガラスの扉に反射する車のライト。何ていうことない日常のワンシーンが、しかし不思議な印象を放っています。

 上田一は、小さな声で遠慮がちに注文。

「いつもの…」

 店主にそう言っても、上田は一度しか来店したことのない新参者。だから、すぐには通じない。怪訝そうに聞き返す店主。

「いつもの?」

上田はもう一度、勇気を振り絞って繰り返す。

「いつもの…」

 そしてもう一度「いつもの……酢豚餃子セット」を注文し食べるという、ただそれだけの内容。文字に書き出せば、筋立てと言えるほどのものはなく、非常にシンプル。

 しかし、そのささやかな日常の「一コマ」の中に、たしかにドラマツルギーが存在しているから面白い。人が何かを決意し、変わる瞬間のドラマツルギーが。

 上田は真剣に思っている。「この店の常連」になりたい、と。見知らぬ土地で、自分の居場所が欲しい。「常連」とは居場所を見つけたサイン。引っ込み思案なサラリーマンが、一歩勇気をもって踏み出す瞬間。何だかわかる。理解できる。共感できる。見ている人に、そんな気持ちを抱かせる。やはり、ドラマの力は強いのです。

 宣伝している商品自体は、住友生命『1UP(ワンアップ)』なのですが、しかし保険の内容はCMを見ても実はよく解らない。詳細は伝わってこない。しかし、クライアントとしてはそれでいいと思っているのでは。じわっと印象を残し心の中に入れ込めばOK、あとは関心を持った人が自分で詳細を調べてくれるはず、と。

 ドラマ的演出がなぜ、CMにおいて有効なのか? それは間違いなく、人の心を揺さぶるから。共感を呼び起こすから。心が動くと、記憶につながるから。

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン