庶民派をアピールする文在寅大統領は刺身など海産物が好物
この魚食拡大の流れはその後も続き、とくに1990年代以降、ソウルでは“肉離れ”が進んだ。これは朴正熙、全斗煥、盧泰愚という慶尚道系の軍人政権の後、いわゆる民主化時代以降も金泳三(慶尚南道)、金大中(全羅南道)、盧武鉉(慶尚南道)、李明博(慶尚北道)、朴槿恵(同)と、保革、左右に関係なく南部の魚食文化圏の出身者が政権の中枢に座ったからだ。
最も思い出深いのが金泳三。彼の実家は煮干用のイワシ漁の網元で、在任中には盆暮れに外国人記者にも煮干がよく贈られた。
それまでソウルではうどんをはじめ汁物は伝統的には肉ダシだったが、金泳三以降、煮干ダシが広がった。彼の好物は煮干ダシの「カルククス(煮込みうどん)」で、日本人記者も大統領官邸で昼食によばれた。ただ、韓国人は「カルククス」だけでは文字通り(?)「軽く」て食った気がせず、帰りに焼き肉屋に立ち寄っていた。
金大中の故郷(木浦)は韓国を代表する“嫌悪食品”の「ホンオフェ」が名物である。魚のエイ(ホンオ)を腐らせ醗酵させたもので、汲み取り式トイレのような強烈なアンモニア臭がする。地元では冠婚葬祭の祝い食の定番だが、それが金大中政権以降、首都で需要が広がり全国区になった。
しかし、本人は「食は補薬(体力を補う漢方の一種)」がモットーの健啖家で、日本人記者へのおごりはいつも大好きな中華料理だった。