上野:こういうお金のことって、医者はあまり書いてくれません。だけど、やっぱり知りたいでしょう。いいご臨終だったかもしれないけど、「それでなんぼ、かかったんですか?」と。本の中には、私も同行した、ひとり暮らしの「なっちゃん」の事例が出てきますね。
〈「なっちゃん」とは亡くなった当時、82才の上村奈津子さん。認知症が進み、グループホームへの入所を勧めると、血相を変えて「入所させるなら木曽川に飛び込む」と拒否。小笠原先生の訪問診療を受け、最期まで自宅にとどまった。亡くなるまでの3か月間にかかった費用の明細表が本書には掲載されている〉
上野:こういうおひとりさまは、どなたがお金の管理していたんですか。
小笠原:なっちゃんの場合は、成年後見人の甥御さんですね。成年後見人を立てるケースは今、多いです。
上野:収支がはっきりわかるくらい、立ち入ってお聞きになったということでしょう。後見人になったかたは、そういう情報も医者に提供してくれるんですか?
小笠原:聞けば教えてくれますよ。お金の把握ができていると、最善の治療と介護の計画が立てられますから。明細を見てもらえばわかりますが、なっちゃんが亡くなるまでの3か月間、後期高齢者適用の医療保険や介護保険を使い、加えて自費の24時間巡回型ヘルパーを頼んで、毎月の実質の自己負担額はおよそ5万~8万円の間です。他には、ひとり暮らしで、肺がん末期で余命数週間の男性の場合だと、最後の3か月の合計自己負担額は、7万428円でした。
上野:そう、そう。具体的な金額を見ると、在宅医療はそれほど高くない。この数字を見て安心する人は、すごく多いと思います。
小笠原:小笠原内科で在宅看取りをしたひとり暮らしの患者さんの約8割の人が介護保険や医療保険の範囲内で収まりました。約1割の人は、それを少しオーバーし、こだわりを希望された人は介護保険と医療保険で収まらず、30万円以上を自費で支払われましたが、それでも約1割のかたですね。
上野:30万円で「使った方」というのも、すごいですね。
小笠原:だからぼくは、30万円の現金があれば、年金の多い少ないに関係なく、9割のかたを自宅で看取りまで支えられると思っています。
※小笠原文雄先生が7月17日、「なんとめでたいご臨終の迎え方」をテーマに、東京・小学館で講演会を開催。
詳細はhttps://sho-cul.comへ。
※女性セブン2017年7月20日号