ヒトの特徴の一つは巨大な「脳」であるが、巨大な脳を持つまでには、生物としての長い長い歴史があった。内臓にこだわった三木先生は、そのことを忘れてはならない、と警告していたように思う。

 昔から「腹をわって話す」「腹が据わる」などという。「腑に落ちる」という言葉は、直観的に理解したり、心底、納得できるときに使う。このときはたらくのは、「脳」ではなく、やはり「腑」だ。腑とは内臓のこと。江戸時代、解剖のことを「腑分け」と言った。

 三木先生は、腸には、「心」があると言っている。でも、これは決して突飛な発想ではない。過剰なストレスで過敏性大腸炎になることもある。うつを防いでくれる幸せホルモン・セロトニンは腸に98%存在している。腸は、心の状態を映す臓器なのだ。

「人間を知りたければ、うんこを探れ」と彼は言った。うんこにこだわる学者だった。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『検査なんか嫌いだ』『カマタノコトバ』。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

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