春の決勝で日大三に17点を奪われた早実の不安要素は明白で、投手陣だ。同校の和泉実監督は、春季関東大会後から、捕手の雪山幹太(2年)を先発に起用し続けてきた。雪山は神戸中央リトルシニアに在籍していた中学時代に投手経験があるものの、早実入学後は捕手一本で、春までブルペンで投球練習することさえなかった。和泉監督は夏の大会を前にこの急造投手に背番号「1」を与え、初戦の勝利後には、幾度も彼のことを「エース」と呼んでいた。和泉監督は言う。
「雪山がチームの柱になれるかはまだ分からない。ただ、現実として、捕手しか守っていなかった彼が急遽、投手になったのは、このチームに柱となる投手がいなかったからだから……」
対する日大三を率いるのは小倉全由監督だ。高校野球を取材するようになって10年以上が経つ私は、いろんなタイプの監督と言葉を交わしてきたが、小倉監督に会う度にいつも思う。「もし自分に息子がいて野球をしたいというのなら、この監督に預けたい」と。男が惚れる男が小倉監督なのである。
親元を離れて共同生活を送るナインと、小倉監督は週6日、寝食を共にする。自宅は千葉・九十九里にあるので“単身赴任”の生活だ。角刈りの強面で、贅肉のついていない肉体はとても60歳には見えない。厳しくも優しい眼差しで球児を見守り、ミスを責めたりせず、人情、男気といった言葉がよく似合う。
そして野球は常に真っ向勝負。毎年、強打のチームを作り上げ、2001年夏と2011年夏の2度、全国制覇を遂げた闘将である。