芸能

『奇跡の歌』で明かされた大歌手・ペギー葉山さんの「旅立ち」

お別れの会には800人が参列した(6月22日)

 ペギー葉山さんは日本歌手協会の会長まで務めた戦後日本を代表する大歌手のひとりである。4月10日、自宅で倒れ入院。診断は「肺炎」、その後容態が悪化し12日に亡くなった。享年83。これまで多くを報じられてはいないペギーさんの「最期」だが、作家・ジャーナリストの門田隆将氏が上梓した『奇跡の歌 戦争と望郷とペギー葉山』(小学館刊・7月24日発売)の中で克明に明かされている。

 同書は、太平洋戦争のさなか、望郷と鎮魂の思いを胸に中国戦線で兵士たちが歌い継いだ『南国節』が戦後、『南国土佐を後にして』へとかたちを変え、ペギーさんによって新たな「命」を吹き込まれ、さらには『ドレミの歌』につながっていく奇跡のような実話を描いたものだ。東日本大震災で打ちひしがれた人々を、ペギーさんが歌う『ドレミの歌』が励ましていくラストシーンは感動的だ。門田氏は、生前のペギーさんほか多くの関係者に取材を行なった。

 門田氏にとっても、ペギーさん急逝の報は衝撃的だった。ペギーさんはつい2週間前に越路吹雪さんの特別追悼公演で元気に歌を披露したばかり。やがて始まるコンサートに備えてリハーサルも順調にこなしていた。倒れる前日にも普通に夕食を摂っていた。

 ペギーさんは朝、自宅マンションの化粧台の前でめまいを感じ倒れ込んだという。目黒区内の病院に運び込まれた。集まった所属事務所の社長や仕事仲間、親族らが目にしたのは酸素吸入マスクをつけたペギーさんの姿だった。

〈「どうも、医者がいい顔をしないのよ」

 六十年以上にわたってペギーの伴奏をつとめるピアニスト、秋満義孝のもとにペギーのマネージャーからそんな電話が入ったのは、四月十日の昼のことである〉(『奇跡の歌』より。以下〈〉内同)

 握った手は少し冷たかった。ペギーさんの意識はだんだん遠のいていった。11日の夜まではしゃべることができたが、それ以降は叶わなかったという。亡くなったのは12日の11時55分だった。

 4月14日から始まるステージに備え、亡くなる4日前の4月8日にも一緒に練習していたという秋満義孝はこう振り返っている。

〈「これは、関東で十か所ぐらいまわらなきゃいけなくて、関西でも七月に四か所ぐらいまわるものでした。それに九月には上野の文化会館で、“歌手生活六十五周年”の記念コンサートをやることが決まっていましたからね。八月にも、帝国ホテルで、インペリアルジャズというのに出るはずだったんです。具合が悪くなったら、ひと月でもいいから、ゆっくり休んで寝ていてくれればよかったんです。それが、話ができないうちに突然、逝っちゃったんですよ。星がパーッと落ちたみたいになっちゃって…」〉

 お別れ会がのちに予定されていたため、4月16日に茨城県下のお寺で営まれた密葬はごく身近な者だけで済ませた。秋満は娘とともに参列した。

 お別れのときがきた。

〈そのとき、秋満は声をあげそうになった。溢れんばかりの花のなかで、ペギーは、なにかを抱くようにして、胸の前で手を組んでいた。抱いているのは、譜面である。

(ああ…)

 そのとき秋満の目から涙があふれ出てきた。それは、『南国土佐を後にして』の譜面だった。秋満自身が持っていったものだ〉

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン