ビジネス

改良版FITに辛口評論家も驚く「ホンダらしさが戻ってきた」

 改良版フィットに乗る2か月ほど前、筆者は昨年秋に発売されたコンパクトミニバン「フリード」のハイブリッドモデルで東京~鹿児島間を3800km走った。走りの質感は改良版フィットほどではないものの、フリードもサスペンションの動きが良く、とくに中国山地や九州山地の山岳路のようなうねりがきついルートを走っても、4輪がしっかり路面をつかみ、安心してドライブすることができた。

 そのときに感じたのが、「もしかしたらホンダのクルマづくりがちょっと戻ってきたかな」ということだった。

 ホンダは一時期、クルマの乗り心地や走りの質感の作りこみが大変にうまくなったことがある。2007年に登場したフィットの第2世代モデルは、マイナーチェンジ前までは今回のフィット改良版に似た、しっとりとした走り味を持っていた。

 2008年に発売された3列シートミニバン「オデッセイ」の第4世代モデルは、見かけや仕立てこそノンプレミアム(大衆車)だが、操縦性や乗り心地はまるでドイツのプレミアムセグメントのように優れていた。2011年に発売されたSUV「CR-V」も光るものを持っていた。

 せっかくクルマづくりのコツをつかみつつあったのが突然崩れた原因のひとつが、伊東前社長がぶち上げた拡大路線にあったことは間違いのないところだ。もちろん開発者たちがクルマなど雑に作ってもいいと考えたわけではない。当時の内情を知る関係者のひとりは、

「あの頃は新興国に大々的にクルマを売るということで、販売する国それぞれの規制に対応させるなど、それまであまり多くなかった業務がいきなり増えて、研究所内は多忙をきわめていました。あまりに忙しいため、うつ病になった人もいたくらいです。フィットをはじめ、多くのモデルが自分たちの思う良いクルマの10分の1も作り込めないまま世に出すことになってしまった」

 と振り返る。本田技術研究所の社長を2016年6月まで務めた福尾幸一氏も、退任直前に行ったインタビューで、

「あまりに手を広げすぎ、急ぎすぎたのは良くなかった。この点については深く反省している。今は開発のスピードを緩めて、みんなが考える時間を持ち、納得の行く仕事ができるようにしている。態勢が整えばもう少し開発ペースを早めるかもしれないが、無理が出ないようにということはこれからもしっかり管理していくことになると思う」

 と語っていた。少なくとも今回の改良版フィットやフリードを見るかぎり、開発現場の過重労働の解消に動いた効果はそれなりに出ているようだった。

「クルマの仕様をあれこれと変えて試すたびに、主たるエンジニアはみんな、そのテスト車両に乗って、効果がどう実感できるかということを必ず体感で確かめるようにした。また、何がいいのかということについて議論をする時間も持てた。フィットについてはもっと早く改良すべきだという声をたくさん頂いていたし、我々もそうしたかったが、クルマを本当に作り込むには本来、これだけの時間が必要なんです」

 改良版フィットの開発に携わったエンジニアのひとりはこう語っていた。

 ホンダファンにとって、ホンダの“らしさ”が少し戻ってきたことは朗報だろう。が、クルマを良くすることだけではホンダらしさの本当の復活を果たすのは難しいだろう。

関連記事

トピックス

復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
男気を発揮している松岡昌宏
《国分騒動に新展開》日テレが急転、怒りの松岡昌宏に謝罪 反感や逆風を避けるための対応か、臨床心理士が注目した“情報の発信者”
NEWSポストセブン
水原受刑者のドラマ化が決定した
《水原一平ドラマ化》決定した“ワイスピ監督”はインスタに「大谷応援投稿の過去」…大谷翔平サイドが恐れる「実名での映像化」と「日本配信の可能性」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
熊本県警本部(写真左:時事通信)と林信彦容疑者(53)が勤めていた幼稚園(写真右)
《親族が悲嘆「もう耐えられないんです」》女児へのわいせつ行為で逮捕のベテラン保育士・林信彦容疑者(53)は“2児の父”だった
NEWSポストセブン
リクルート社内の“不正”を告発した社員は解雇後、SNS上で誹謗中傷がやまない状況に
リクルートの“サクラ行為”内部告発者がSNSで誹謗中傷の被害 嫌がらせ投稿の発信源を情報開示した結果は“リクルートが契約する電話番号” 同社の責任が問われる可能性を弁護士が解説
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン