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日本兵と心を通わせた豹「ハチ」の物語【前編】

成岡正久小隊長に拾われたハチ(成岡俊昌さん提供)

 人類史上最悪の死者6000万人という犠牲者を生んだ第二次世界大戦。だが、犠牲となったのは人間だけではない。人間以上の悲劇が生まれていたのが、動物の世界だった。戦場で出会い、深い絆で結ばれ、ともに戦った“同志“でさえも、「人間の都合」で次々に殺されていく。中国大陸に進出したある日本兵部隊と雄豹の2年6か月の物語が、人間の根源的な優しさと戦争の悲惨さを、痛いほどに伝えてくる――。

 30人を超える小学生が、大きな豹の剥製を前に、身じろぎもせず聞き入っている。

「寝る時も、お風呂の時も、“この子”は常に兵隊さんと一緒でした。夜の見張りで心細い兵隊さんを訪れ、勇気づけました」

 語りかける声に真剣に耳を傾け、次の言葉を待つ子供たち──。

 8月15日の終戦記念日を間近に控えた7月30日の昼下がり、高知市の「子ども科学図書館」で、ある紙芝居のイベントが開かれた。画用紙30枚に描かれたのは、一匹の豹の物語。読み手の指導員が紙をめくるごとに、水玉模様の豹が躍動する。

 人間に救われ、人間とともに生きたその豹の生涯に、子供たちは胸をときめかせる。だが、終盤が近づくにつれ、その表情は徐々に悲痛なものへと変わっていく。74年前、第二次世界大戦真っ只中の日本で、人間と動物を巡る悲しい出来事があった。

 酷暑で知られる高知の夏。太平洋高気圧と南からの湿った空気に覆われ、例年、猛暑日が20日以上続く。

 その中心地である高知市の市街地に、「はりまや橋」と呼ばれる一本の橋が架かっている。わずか10mのその赤い橋のすぐそばには、4月に亡くなった歌手のペギー葉山さん(享年83)直筆の記念碑が置かれ、鯨のモニュメントが川縁を泳ぐ。

 観光客が入れ替わり立ち替わり写真を撮っていく橋の真ん中で、日傘を差してじっとたたずんでいる高齢女性がいた。話を聞くと、東京から1泊2日で来たという。

「私が小さな頃、ペギーさんの『南国土佐を後にして』という歌が大流行しまして。その歌の縁の地である高知は、死ぬまでに一度来たかった。予想以上の暑さに参っていますけど(苦笑い)」

 75才という年齢で初めてこの地を踏んだ彼女は、時折水を飲みながら喜々として話す。その時、記念碑のスピーカーから大音量で『南国土佐を後にして』が流れてきた。

 橋の人々の会話が聞こえなくなるほどの大音響である。1日13回、決まった時間に流れるという。

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