1950~1960年代の日活黄金期を駆け抜けた芦川の活動期間は、15年間と短い。だが近年、急激にファンを増やし、年齢層の幅も50~60代を中心に30~40代にも広がっているという。約50年前に引退した女優の人気は衰えを知らない。
「2015年に開催した『恋する女優 芦川いづみ』特集は連日満席で、翌年の冬と夏にアンコール上映をしました。2007年の開館以来、アンコール上映を2度行なったのは芦川特集だけです。芦川さんがスクリーンに出てくるだけで、お客様は喜んでいますね。引退後、一度も表舞台に登場しないことも伝説に拍車をかけているのではないでしょうか」
彼女の特集を組むたびに、全国から熱狂的なファンが劇場に通い詰め、ロビーに設置したアンケート箱には、リクエスト作品や映画の感想が多数寄せられるという。
総選挙と女優特集で3位を獲得したのは、戦後の日本を代表する伝説の映画女優・原節子。「世界的巨匠・小津作品のミューズ(女神)的存在」と佐藤氏が評するように、小津監督の『晩春』(1949年)、『東京物語』(1953年)などで銀幕の大スターの座を不動のものにした。1962年の『忠臣蔵』(稲垣浩監督)を最後に、42歳の若さで突然引退。公の場に姿を見せたのは、1963年の小津監督の通夜が最後とされる。
原や芦川のように、最も美しい姿をフィルムにとどめたまま、スクリーンから消え去った女優のほうが名画座では人気が高い傾向だという。「テレビに頻繁に出演し、私生活を露出するような女優さんは、どちらかというと当館ではあまり人気がないようです。女優は、上品で清純で美しく、永遠の高嶺の花であってほしいと願っているお客様が多いですね」と佐藤氏。