◆これまでの生活設計が音を立てて崩れていく
年金制度に詳しい社会保険労務士の北村庄吾氏は、「公的年金の支給開始年齢は定年年齢プラス5歳に引き上げられてきた。65歳定年制の完全実施で年金が70歳支給になるのは既定路線といっていいが、政府はその先、年金完全75歳支給に向けた準備を始めた」と指摘している。
それをにらんで安倍政権は高齢者の定義を75歳以上に改め、「働き方改革」という名目で年金が空白となる65歳から74歳の間は高齢者に働いてもらって自助努力で生活費をまかなう仕組み作りを急いでいる。年金70歳支給どころか、いっぺんに年金75歳支給に引き上げ、高齢者に“死ぬまで働いてもらおう”という狙いがはっきりしてきたのだ。
そうなると、「自給自足のセカンドライフ」など夢のまた夢になる。『家計の見直し相談センター』代表でファイナンシャルプランナーの藤川太氏が語る。
「自給自足といっても米などの主食や肉、魚などは買うことになるので食費が大きく減るわけではありません。それでも、Mさんのように60歳時点で2500万円の貯金があれば、これまでなら年金収入と貯金を少しずつ取り崩していくことで夫婦とも85歳くらいまでの生活設計は成り立っていました。
ところが、年金が75歳支給になると前提は大きく変わってしまう。夫婦で年金月額約22万円の標準モデル世帯の場合、10年分の年金収入約2640万円が減らされる。そうすると定年時点での貯蓄は2500万円ではとても足りず、退職金を合わせて5000万円の貯金があっても、85歳前に食いつぶしてしまいます」
年金75歳時代には貯金5000万円あっても足りないというのである。
※週刊ポスト2017年9月8日号