そうした典型的な事件の背景に、現実の事件がそれとわかる形で映り込むのも同シリーズの常だ。第1作『笑う警官』で道警の裏金問題を扱い、世間の度肝を抜いた氏は、本作でJR北海道の不祥事に着目。その中で解雇された〈梶本裕一〉の復讐劇を、あくまで佐伯たち警官の立場から描く。
「最近は警察で何か起きる度に、『佐々木譲の小説みたい』と言われるようになっちゃいましたけどね(苦笑)。今回のJR北海道で言えば、2015年4月に青函トンネル内で特急スーパー白鳥が発煙事故を起こし、乗客が逃げ惑う騒ぎになった時に、乗務員がマニュアルに縛られすぎて何もできなかったことが私には引っかかった。
近年赤字路線を多数抱えるJR北海道では脱線事故や信号故障が相次ぎ、社長が2人までも謎の死を遂げた。さらに検査データの改竄や隠蔽目的の自動停止装置の破壊まで発覚して、そんな何が優先課題かもわからなくなった状況と一刻を争う爆破サスペンスが、ある時ふと、結びついたんです」
しかし逃げた少年の身元特定一つにも膨大な手間を要するのが現場の警官たちだ。小島は少年の所持品に悉く記された名前に着目し、覚醒剤使用容疑で逮捕された母親の勾留中に養護施設にいた〈水野大樹〉の行方を追う。だが釈放された母親共々、消息は掴めない。
一方、佐伯と新宮は園芸店付近の防犯カメラを虱潰しにあたるが、立ち塞がるのが組織の壁だ。捜査情報は基本的に他部署と共有されず、かと思えば不審車の捜索に突然圧力がかかったり、なぜもっと早くブラックバードに集まって、裏・捜査会議を開かないのかと、もどかしくてならない。