「ただしその論理も正義とは何かではなく、法に則って語らせるのが私は警察小説の鉄則だと思うんですね。小島が大樹を説得するのは、それ以外に手がないからで、彼が自分で答えを出すまでの攻防が、爆破計画の成否以上にスリリングな山場になっていれば嬉しい。
ただその一刻を争う現場で長正寺が〈女子供は下がれ、ひっこんでろ〉という台詞が女性は気になるみたいでね。女性蔑視でも何でもなく、弱い者は守らなきゃいけないと思う古臭い男の純情を、わかっていただけないかなあ(笑い)」
気になるのは、『新幹線大爆破』や『太陽を盗んだ男』といった70年代のパニック映画と違い、梶本には社会への怒りや動機を語る機会すら与えられないことだ。
「語らせたら野暮になるし、これは警察小説ですからね。警官の仕事は犯人逮捕までで、人を裁くことではない、則るべきは法律以上でも以下でもないという原則を、私は正義を語らない彼らに守らせてきたはずです」
そんなストイックなまでの覚悟と制約こそが、今後全10作が予定される魅力的なこの群像劇を生み得たのだろう。
【プロフィール】ささき・じょう/1950年夕張市生まれ。会社勤務を経て、1979年『鉄騎兵、跳んだ』でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。1990年『エトロフ発緊急電』で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞。2010年『廃墟に乞う』で直木賞。2016年日本ミステリー文学大賞。2004年の『笑う警官』(『うたう警官』を改題)に始まる道警シリーズや『警官の血』『地層捜査』など著書多数。映像化、舞台化も多数。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年9月15日号