「佐伯たちは来歴が来歴だけに、小さな事件しか基本的に回ってこない、組織の厄介者ですからね。ただ、そんな連中が各々の持ち場で職務を全うしてこそ、チームワークを発揮できるのが道警シリーズで、ジャズを聴きに行くのは、時々でいいんです(笑い)」
◆警察小説だから犯人に語らせない
やがて捜査線上には不審車両の所有者リストから、元JR保線員・梶本が浮上。道内が新幹線開業に沸き、札幌駅でも某アイドルグループのイベントが大々的に計画される中、梶本の解雇後の足取りを追った佐伯は言う。〈あの会社に、そういう浮わついた企画をやってる余裕はないはずだ〉
「新幹線開業後の平均乗車率を見ても、本当に浮かれてる場合じゃないと思うんですよ。夕張が何の展望もない観光事業をあてこんで財政破綻したバブルの頃と、結局は何も変わっていない。私の仕事場は道東も外れの中標津にあるんですが、地方の疲弊は酷いものでしてね。いずれ東京もオリンピックに浮かれて息の根を止められるんじゃないかと思わないではありません」
国鉄民営化最大の敗者である同社や梶本の境遇には同情の余地も多々あった。とはいえ記録改竄や復讐が許されるはずもなく、彼を慕う大樹を小島がどう説得するかが本書最大の読み処と言えよう。
梶本と行動を共にし、札幌駅で保護された大樹は、梶本が爆発物をどんな方法で爆発させるかに話が及ぶと口を閉ざす。JR側も爆発の可能性では動いてくれない。奇しくもこの日、札幌駅では件のイベントが開催され、ファンやマスコミで構内がごった返す中、小島はこれだけ多くの人間を本当に死なせていいのか、大樹自身に考えさせるのだ。