しかし、関ケ原の戦いは抵抗戦争でも解放戦争でもない。諸侯の領土拡張戦争ではないか。しかも、数十万丁の火縄銃が使用され、これは当時の地球上にあった火縄銃の半数を超えるという説さえある。

 こんな凄惨な戦争を無批判に賞讃し、あまつさえ観光資源にして金儲けをしようという計画を許していいのだろうか。既にその前兆は、十年以上前からあった。「関ケ原合戦祭り」が毎年催され、武者行列だの布陣パフォーマンスだの、あげくは子供まで武装させて行進させる。メインイベントは火縄銃の模擬一斉射撃である。硝煙が漂う会場には屋台や土産物屋が並び、文字通りお祭り騒ぎだ。

 1945年3月26日から6月23日まで、沖縄では壮絶な戦闘が続いた。同年8月6日、広島に原爆が投下され、同月9日、長崎にも原爆が投下された。これを「歴史の授業で有名なわりに観光にいかせていない」と「歯がゆく」思う人がいるだろうか。沖縄の戦跡で「沖縄戦祭り」が開かれ、子供たちに軍装させて行進させるだろうか。広島・長崎で模擬原爆投下のパフォーマンスが行なわれ、観光客が歓声を挙げるだろうか。

 いや、ほんの七十年前の戦争と四百年も前の戦争とでは、わけがちがう、という声もあるだろう。それなら、戦争から何年経ったら、そういうお祭り騒ぎだの観光資源化だのも許されるのだろうか。

 戦争体験の風化が進み、沖縄戦や原爆の惨劇さえ忘却されようとしている。風化忘却を嘆く声は強く、私もそれに共感する。しかし、風化忘却の勢いは抗しがたい。関ケ原観光資源化がその証明である。「天声人語」はこう結ばれている。「歴史の面白さを知る糸口として格好のテーマだろう」。私は「歴史の面白さ」ではなく「歴史の悲情さ」だと思う。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。

※週刊ポスト2017年9月22日号

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