「毎朝、自分を刺激するお勉強を1時間しています。それで、思いついたこととか、ラジオの喋りのネタとか、新聞の切り抜きなどをノートに書いたり貼ったりしているんですよ」と言って、武田は、1冊のノートを鞄の中から取りだした。
ノートの表題には「修業論」とある。びっしりと細かい文字で埋め尽くされたノートは、すなわち老いに向かう修業法を記したものだった。
武田は、老いとは「人生の降り方」だと言い切る。
「いま、ご老人たちは、若さにしがみつき過ぎているんじゃないでしょうか。みんな降りることを否定して、まだ登っていこうとする。そこから先は雪山だと言っても、高い山を目指すのが人生だと言う。
俺は正直に告白するけど、若い娘を見ても、もう昔ほど興奮しないもんな。昔みたいな深い野生から生まれてくるガッツや抑えきれない欲望みたいなのはなくなったもんな。だけどね、そこの部分がスポッと抜けると、建物が壊れて向こう側の風景が見えてくるんです。
老いって、積むことじゃなくて、積んだものを壊していくことじゃないかなって思う。その建物の向こう側に見える景色に、意外と価値があるんじゃないかなと思うんです。俺は『水戸黄門』を演じつつ自分なりの老いを探していきますよ」
●たけだ・てつや/1949年、福岡県福岡市生まれ。福岡教育大学中退。1972年「海援隊」でデビュー。「母に捧げるバラード」がヒットし、1974年に紅白歌合戦に出場。1977年『幸福の黄色いハンカチ』(山田洋次監督)で俳優としてデビューし、1979年『3年B組金八先生』(TBS系)の先生役で高い評価を受ける。1991年の『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)、『太平記』や『龍馬伝』などのNHK大河ドラマで役者としての幅を広げていった。『リミット』(NHK)をはじめ刑事の当たり役も多い。この10月からBS-TBSで『水戸黄門』がスタートする。
■撮影/江森康之 取材・文/一志治夫
※週刊ポスト2017年10月6日号