「定年後ボランティア」──これこそ人生の醍醐味と語る人がいる。そこで、ボランティアに汗をかく老後を選んだ人に密着した。
元日立製作所の家木幸一さん(77)はオーディオ部長などを歴任し、関連会社ザナヴィ(現・クラリオン)の取締役も務めた。61歳で退職し、定年退職後の63歳でJICAのシニア海外ボランティアに参加。ヨルダン、エジプトに何度も赴いた。
「現地の大学で、中小企業の社員たちに生産性向上や品質管理などについて教えました。ある工場を視察した時、現場監督が仕事中にタバコを吸い、しかも吸い殻をその場に捨てていた。注意すると、『清掃人がいるから大丈夫』などと言う。これでは現場がまとまらない、と感じました」
そこで、日本の製造現場で有名な「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」を教えることにした。
「工場や倉庫の見取り図を作り、レゴブロックを商品や部品、掃除道具などに見立てて、どう配置すれば作業効率がアップするかをゲーム感覚で学べるメソッドを考えました。これがウケて、今では『家木メソッド』を教えてほしいと国内外で講演を頼まれています」
海外生活は苦労もあったが、「生徒に教える方法を考えている時はその苦労が楽しかった」と振り返る。
「ボランティアは自分の人生の糧になりました」
【団体DATA】JICA(独立行政法人国際協力機構):外務省が所管する日本のODA実施機関として、開発途上国への支援を行なう。シニア海外ボランティアは農林水産、社会福祉など9部門。派遣時40歳以上、69歳以下が対象。
※週刊ポスト2017年10月13・20日号