『松茸、しめじ』(安藤緑山・作)
『松茸、しめじ』は松茸の傘の裏の襞やぷっくり膨らんで反り返った石づきの見事さに唸らされますが、最大の見所は松茸の傘が割れているところ。乾燥してパックリひび割れてしまったのでしょうね。食べ頃の匂い立つような松茸ではなく、傷みかけた“完全ではない姿”を再現する。しおれた南瓜など情けない姿もまるごとスーパーリアルに表現する感性こそが緑山の独自性であり、日本人の琴線に触れるウイット・遊び心なのです。
高度な技術という点では、着色技法も見逃せません。明治期に大流行して多くの人が手がけた牙彫ですが、その大半は着色していない真っ白なものでした。
しかし、緑山のこのトマトやバナナは何といっても鮮やかです。象牙の表面に色を塗っているというよりも染めている。独自に編み出したであろう謎の着色技法についても、ご遺族から多少情報を得ることができ、分析を進めているところです。
前回出展された『竹の子、梅』は、非常に驚きを持って人々に鑑賞されました。美術番組で大きく特集が組まれ、現在は村田コレクション(京都・清水三年坂美術館、村田理如館長のコレクション)から国が買い上げ京都国立近代美術館所蔵となっています。今回12点の緑山作品が並び、会場では連日歓声があがっています。
■撮影/太田真三
※週刊ポスト2017年11月3日号