まさしくこの日から、貴ノ岩は福岡市内の病院に極秘入院していた。下された診断は〈脳震盪、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑いで全治2週間〉。貴乃花部屋では箝口令が敷かれ、その事実はひたすらに伏せられた。
「今回の事件は、『現役横綱による暴行』という一大事にもかからず、発生から発覚までの経緯は策謀が巡らされた形跡だらけで、改めて角界の闇の深さが浮き彫りになった」(協会関係者)
モンゴル出身の横綱・日馬富士が同郷の後輩力士・貴ノ岩を殴打する事件が、巡業先の鳥取で起きたのは10月25日の夜。事件が表沙汰になったのは、九州場所3日目の11月14日朝だ。同日のスポニチが一面で暴行事件を“スクープ”。〈ビール瓶で思い切り殴打した〉という衝撃的な内容の記事で、日馬富士は謝罪、休場に追い込まれた。
事件から発覚までの「空白の20日間」──実は、その間に、水面下の激しい暗闘が繰り広げられていた。
◆“手打ち”を断固拒否
貴ノ岩の師匠である貴乃花親方は事件の4日後、10月29日に鳥取県警へ被害届を提出しながら、そのことを協会に報告しなかった。
「協会側は11月2日に鳥取県警から連絡を受けて初めて、暴行事件を把握した。翌3日には協会の危機管理担当理事・鏡山親方(元関脇・多賀竜)が、日馬富士の師匠である伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)と貴乃花親方に電話でヒアリングしていますが、双方ともに事件については“わからない”と答えるだけだった」(前出の協会関係者)