ベアテさんが書いた草案は、男女平等、男女同権から妊婦と乳児の公的保護、教育の拡充、児童の不当労働の禁止、長男の単独相続権の廃止など多岐に及んだ。従来の日本では後回しにされてきた“弱者”に寄り添う文言だった。しかし、草案作成の統括責任者だった民政局次長のケーディス大佐は、これを読んで表情を曇らせた。

「ベアテさんの草案は、個別具体の事例まで詳細に踏み込んだため、相当な長文になっていた。GHQからすると、憲法はあくまで原則の骨子を示すもので、簡潔明瞭であることが求められる。日本政府との争点を極力減らしたいという意向もあったのでしょう。『詳細な制度は民法に委ねればよい』として、大部分が削られることになりました」(三木さん)

 無論、ベアテさんは猛抗議した。彼女は過去にインタビューでこう答えている。

《そのときに私、泣いたんです。「憲法のなかに書かないと、民法に入らない」って。だって、私は虐げられてきた日本の女性の姿をこの目で見てきましたからね。民法を書くのは官僚的な日本の男性でしょう。彼らはそんなこと書かないと思っていました》

 彼女の抗議は受け入れられなかったが、根幹をなす2つの条文だけは残された。それが、前述した憲法24条の2項目である。いわば24条は、男女平等と女性の権利向上を願うベアテさんの祈りそのものなのだ。

「日本国憲法について、アメリカからの『押しつけ憲法だ』という人がいますが、それを言ったらわれわれが今謳歌している民主主義自体が押しつけです。日本国憲法は、当時の日本人が考えつかなかった革新的な憲法です。ベアテさんは、『自分の持ち物よりもいい物を誰かにあげるとき、それを押しつけとは言わない』と話していました。私も同じ気持ちです。日本国憲法は押しつけではなくて“ギフト”なのだと思います」(三木さん)

※女性セブン2017年12月14日号

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