国内

泡沫候補 親の遺産相続で出馬環境が整うケース多い

選挙ポスターで人気のポーズをとる『黙殺』著者の畠山理仁氏

 落選を繰り返してもまた、選挙に立候補する人たちがいる。フリーランスライターの畠山理仁氏は彼らを泡沫候補ではなく無頼系独立候補と呼び、その独自の戦いを『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)としてまとめ、2017年第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。畠山氏に、立候補できるだけでなぜスーパーエリートなのか、そして候補者だけでなく取材者も広告代理店もとりこにする選挙の魅力についてきいた。

 * * *
──選挙に出ようという人は特別な人で、世の中にはそんなにいないのではないかというイメージがあります。

畠山:たとえば去年の都知事選だと、選挙管理委員会に60人以上が書類を取りに来ました。立候補する人すべてを取材することに決めているので、書類をもらいに来た人すべてに告示日にも来るのか、供託金はすでに納めたのかなどを聞きます。ただ書類をもらいに来るだけの人もいますが、ほとんどのみなさんが告示ギリギリまで「出ます」「政策も考えています」と話して、選挙公報の下書きを送ってくれた人もいました。

──2016年の東京都知事選挙の立候補者数は21人でした。60人と比べると少ないですね。

畠山: 21人で多いといわれましたが、その影には、出馬の意思はすごくあったけれども、最終的に出られなかった人が40人いるんです。立候補するというのは、とてもハードルが高い行動です。だから、立候補者は、たとえ無所属でもスーパーエリートだと思って尊重しなくちゃいけない。それゆえ、選挙報道にありがちな「その他」にくくられるのは、ひどいと思っています。

──立候補する上で最も大きなハードルは何ですか?

畠山:やっぱりお金です。国政選挙の選挙区や知事選挙の300万円という供託金は高すぎます。お金の次にやってくるハードルは、家族や親族の反対ですね。選挙に出るなら離婚すると言われたり、子供が学校でなんと言われるのか分かっているのかと責められたりするそうです。

──それらのハードルを乗り越えてくるのは、どんな人たちですか?

畠山:初めて立候補する独立系候補者に、供託金はどうやって準備されたんですかときくと「去年、親が亡くなって」という答えをよく聞きます。立候補に反対する親が亡くなり、遺産を相続して環境が整うようです。といっても思いつきではなく、昔から政治に対する不満をずっと持っていたという人が多いです。

──お金と周囲の反対さえなければ立候補はしやすくなるんですね。

畠山:とはいえ実際には簡単に出られないんですよ。準備しないとならないものが、他にもたくさんあります。住民票に戸籍抄本、戸籍名と異なる名前を使いたい場合はその届出書類、選挙運動で人を雇うための届出書類、出納責任者も決めて届け出ないとなりません。ほかにも供託証明書、候補者経歴書、選挙公報掲載申請書、政見放送申込書など、選挙管理委員会に提出する書類がたくさんあります。多くの場合はそれらをそろえて告示日より前に一度、選挙管理委員会にきて、事前審査を受けます。ここで書類の不備などをチェックしてもらって、立候補までにすべて揃えておくんです。

──選挙管理委員会には何度か足を運ばないとならないんですね。

畠山:普通は安全策としてそうする方が多い。ところが、もっとすごい人がいます。この事前審査を受けずに、当日いきなり選挙管理委員会にやってきて、すべての書類をパーフェクトに提出する人がいるんです。そして実際に立候補すると、今度はメディアから調査票作成を依頼されます。生まれ育ち、親族に政治家がいるか、この選挙で何を訴えたいのか、などを記入するものです。これが各社でフォーマットがバラバラなので、依頼してくる新聞テレビの数だけ調査票があります。さらに加えて消費者団体や社会活動をしているNPOなどからアンケートが来ます。団体ごとに掲げるテーマがバラバラなので、アンケートの種類も多いです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン