話題の人である泰葉さんのCDジャケットのイラストを描く。「これで僕も一躍人気イラストレーターだ!」と甘い妄想が膨らむ。
「タイトルは『お陽様よほほえんで』このお陽様とはパパのことなんだよね」と聞いて、より一層プレッシャーが増す。描いては消しを繰り返す。
最終的に泰葉さんをイメージして描いた「ひまわり」のイラストを納品。
残念ながらCDは売れなかった、イラストの反響も全くなかった。しかし、大晦日に意外なカタチでTVに映る。
当時、全盛を極めていたエンターテイメントプロレスショー「ハッスル」に泰葉さんが参戦。大晦日に放送される「ハッスル・マニア2008」で試合をする運びとなった。
新年も近くなった頃合、TVで泰葉さんの試合の前フリが始まる。相手レスラーが泰葉さんの物販ブースを襲撃。そこに置かれていたのが『お陽様よほほえんで』のCD。画面いっぱいに散らばり、足で踏みつけられる。
僕の描いた「ひまわり」はグシャリと潰れた。TVの画面のなかで。
それ以降、泰葉さんとは会っていない。イラストを依頼された日が最期の邂逅だった。
あれから10年の月日が経とうとしている。イラスト、デザインも最初の依頼者は泰葉さん、何者でもない僕にチャンスをくれたこと、一生忘れない。
1週間前、水道橋博士著「芸人春秋2」を読んでいた。タモリ、やしきたかじん、石原慎太郎と濃いメンツと水道橋博士の出会いが語られる本著。その最終章を飾ったのが泰葉さんである。
ちなみに、僕が人生で初めて取材をした相手は水道橋博士。
今現在、生業としている執筆、イラスト、デザイン。その「初めて」同士が邂逅している様子を読む。
「芸人春秋2」では「偶然の一致」で起きた出来事が「意味のある」こととして描かれる。つまりは奇縁の話だ。
水道橋博士を中心に描かれる奇縁のサークルのなかに「僕もいる」と認識。意図せずに繋がった縁は目には見えない。しかし、確かに存在する。
この原稿も奇縁を強める「何か」であるように。