第二に挙げられるのが、ジャンプの上手さだ。フィギュアスケートに詳しいスポーツライターは「エテリコーチの選手たちは難易度の高いジャンプを飛ぶだけでなく、ほとんど回転不足がない。きちんと空中で回り切って降りてくる。そういうジャンプを小さいときから徹底的に教え込まれているのです」と語る。
いま、エテリチームの選手たちは4回転にも取り組んでいる。ジュニアのグランプリファイナルで優勝したアレクサンドラ・トルソワ(13)は、試合では転倒したものの、練習では4回転サルコウをきれいに決めている。「3年後には、女子も4回転が普通のエレメンツになるだろう」と、エテリコーチは話す(『フィギュアスケートの世界』)。
三つ目に挙げたいのは、プログラムに積極的にコミットする点だ。振付師とともにエテリコーチも選曲、振り付け、衣装に関わり、勝てるプログラムを作り上げていく。「たとえばザギトワ選手は、加点を狙って、ジャンプをすべて後半にそろえています。そのためには前半にステップ・スピンを集めなければならず、普通に考えればプログラム全体のバランスが悪くなりがち。ですが、そうならないよう、編曲や選曲、構成を練り上げている。非常に考え抜かれたプログラムです」(前出のスポーツライター)
今季のザギトワのショート・プログラムには映画「ブラック・スワン」の音楽が使われているが、ステップの部分のみ、第89回アカデミー賞を受賞した「ムーンライト」のサントラが違和感なく差し挟まれるという凝りよう。10月のカーニバルオンアイスで初解説を務めた町田樹氏は、「何か製作者の意図があるのかもしれない」と指摘していた。
ジュリア・ロバーツのファンで、ファッショナブルな姿も注目を集めるエテリコーチ。プライベートでは聴覚障害を持つ娘を育てるシングルマザーであり、彼女を特集したロシアのドキュメンタリー番組では、母親の顔を覗かせていた。
もちろん、すべての選手が「鉄の女」の下で羽ばたけるわけではない。ソチ五輪で団体金メダルを獲得したユリア・リプニツカヤさんは、エテリコーチと決別した一人だった。とはいえ、メドベージェワとザギトワとの信頼関係は今のところ強固なものがある。最強ロシア女子を牽引するエテリ組は、平昌五輪でも大輪を咲かせられるか。立ち向かう日本勢にも期待したい。