食べることで困ったら、歯科医をはじめ、嚥下状態に合わせて食材選びから調理法まで多くのアイディアを持つ訪問管理栄養士などに相談できます。ただこの分野の連携はいまだ発展途上。自分の身近に、食などの生活を重視できる医療者や介護職を求めていく姿勢も必要です。
摂食嚥下問題に対応している医療機関、飲食店を検索できる『摂食嚥下関連医療資源マップ』もおすすめです」
◆食べる原点を思い出す「kaigoスナック」
「訪問歯科医として切実に残念なのは、歯や嚥下機能などの低下がかなり重症化してから相談される現状。早期の段階で介入すれば、もっとできることがあるのです。そのことを多くの人に知っていただきたくて、また私自身も食べることについてより具体的なアドバイスができるよう勉強したいと思い、『三鷹の嚥下と栄養を考える会』を立ち上げました」
介護や病気予防の市民講座は最近、各地域でも盛んになってきたが、亀井さん主宰の会はユニークで画期的だ。
「食べることについてどんな課題や対策があるか、医師、栄養士、看護師、介護職の人たちが集う勉強会は多くの気づきや学びがあります。でも座学で得たものは案外その後の行動にまでは結びつかない。
もっとリアルで体験的なことができないかと思っていたところ、仲間のひとり、とても優秀だけど下ネタ大好きの管理栄養士さんが雑談の中で、『人間、最後は食べることとエロだよね…』と。
爆笑しながらも、食べることの原点に帰った思いで考えたのが『kaigoスナック』です。
カウンター越しに『最近、どうなの?』とママが聞く。『実はさぁ…』と愚痴ると、ちょっと厚化粧のママやチーママ姿の医師や看護師、栄養士らがこぞって相談にのり、『こんなのあるのよ』と、嚥下食の酒肴やとろみをつけたお酒が出てくる。お客さんも私たちも楽しい。食べるって本来、こんなユル~い日常の中にあるものでしょう?」
『kaigoスナック』は実際の飲食店を借りて、一夜だけ開店する。一昨年から昨年末までに9回行われ、いずれも大盛況だった。
「お客さんはまだ、介護や嚥下障害の当事者に相談される側の医療や介護関係者、ご家族が多数。でも当事者に物品を提供することが目的ではないのです。誰でもいつまでも食べることを楽しむための情報が、ここから徐々に浸透すればいいと思っています」
同じ志のシェフや調理士が来店することも。料理の味や物性を工夫するスキルはプロなので、彼らの協力が得られれば、今後また新たな展開も期待できそうだ。
※女性セブン2018年2月1日号