線路沿いから撮る場合は、鉄道用地や私有地に踏み入らないことは大前提だが、通りがかった近隣住民にきちんとあいさつする、なども大事だ。ホームで撮影する際はフェンスや柵から身を乗り出さない、三脚や脚立を使わない、駅員や乗客などを不要に撮影して不快な思いをさせない、といったことに気をつけたい。また、列車を撮影する際も運転士の視界を遮るストロボ撮影は禁止。
一見すると、撮影マナーとして最低限のようなことばかりだが、これらが守られていないのだ。
「鉄道撮影だけに限らず、風景写真や野生動物といった分野でも同じようなマナー問題を耳にします。風景写真・野生動物の分野でも、いい写真を撮ろうとして自然を破壊してしまったり、餌づけをして生態系を狂わせるようなマナーの悪いカメラマンはどの分野でもいるのです。だから、カメラ撮影とマナー問題は避けて通れない話です」(同)
しかし、自然や野生動物のカメラマンと撮り鉄とでは、世間からのイメージは大きく異なる。今般、一般世間から白眼視されることが多いのは撮り鉄ばかりだ。その差は、何だろうか? 佐々木編集長は、こう分析する。
「自然・風景や野生動物は人里離れた山奥などが撮影地になるので、世間の目は届きにくくなります。一方、鉄道撮影は都市。つまり、人が生活している場が主な撮影地です。だから、撮り鉄は世間から目立ちます。そうしたことから、撮り鉄には非難が集まりやすいと言えます」
もちろん、マナーを守っている撮り鉄は多い。そうしたマナーを守る撮り鉄でも、撮影に夢中になっているうちに線路内や私有地に入り込んでしまうことがある。期せずして、他人に迷惑をかけることはあるだろう。
そうした知らず知らずのうちにマナー違反をしてしまったカメラマンに対して、佐々木編集長は「少しずつでいいから、マナーアップしていこう」と呼び掛ける。
また、撮り鉄は同じ場所に群衆で現れる。鉄道写真の有名撮影地で絶好のポジションは、”お立ち台”と呼ばれる。誰もが美しい鉄道写真をモノにできるので、撮り鉄はどうしてもお立ち台に殺到しがちだ。そのお立ち台を巡る争奪戦では、撮り鉄同士の罵り合いも繰り広げられる。撮影場所をめぐる子供じみた争いは、撮り鉄のイメージをさらに低下させる。
そうした撮り鉄に対して、佐々木編集長は、こんなアドバイスを送る。
「鉄道に限らない話ですが、みんなと同じ被写体・構図の写真は紋切り型になります。面白味に欠けるので、コンテストで選ばれることはありません。だから、人と同じような写真が撮れるお立ち台に殺到するのではなく、自分が心から撮りたいと思うような、オリジナルの鉄道風景を撮ることを心掛けてほしい」
「いい写真を撮りたい。だから、他人よりいい場所を確保したい」といった撮り鉄の気持ちは理解できる。みんなが殺到する人気撮影地で、自分も撮りたいという群集心理もわからなくはない。だが、周囲に迷惑をかける傍若無人な行為は許されない。
撮り鉄とマナーの問題は、簡単には解決しない。撮り鉄と鉄道事業者・沿線住民・利用者は共存するためには、なによりも撮り鉄たちがマナーアップし、撮り鉄のイメージを回復させることだ。それは、つまるところ撮り鉄たちの心がけにかかっている.