前日の列車、その夜のホテル、ホテルからの道のり。マクドナルド先生は何でも知っている。同時代の鉄道時刻表やホテルリストや郵便料金表を熟読した。新聞の雑報欄や劇場通信や契約書やレストランのメニューに目を通した。生きた年代記としての一年であって、語られているのは音楽家の世界だが、社会史や風俗史が色濃くこめられている。鉄道や馬車が忙しく行きかいする都市の日常が背後にある。
たとえ天才であれ、作曲家は曲が出版されなくてはどうにもならない。音楽出版社をどう見つけ、どのように売りこんで、誰に曲を献呈するか。音楽マネッジメントにも多くのページがあててある。それなくして才能もまた「巡り逢う」ときがないからだ。
※週刊ポスト2018年2月9日号