今まで付き合った女性は、みんな、まずこの住まいで目がハートになり、次第に「生理が来ないの。結婚する気あるんでしょ?」と詰め寄ったり、ゼクシィを買ってきて威圧してきたり、親に勝手に結婚前提の同棲をしたと報告していたり、彼女の友人に会えば「結婚するんでしょ?」と周りから固められたりと、とにかく決断を急かされた。
タクマ自身を見て恋愛をしているかといえば、違う。「タクマ」というステータスにしがみついた女ばかりだった。
しかしミキは、表参道のマンションにもリアクションはなく、家に招き入れた時の感嘆もゼロで、拍子抜けするほどであった。
今までの女性とは違う。干渉がない。世話焼きもない。自分の時間をうまく使う女性だった。
俺のどこに惹かれたのか。そんな話になった際は、「優しいから? あと疲れてるからか、無口で楽(笑)」とそんな感じであった。
ある日のこと。タクマは、インフルエンザで寝込んだ。体調がすぐれない中でも動き続けるマーケットへの不安から、フラフラな状態のまま家で仕事をしていたため、そのまま倒れたのだ。ミキはタクマに言った。
「このままだと死ぬよ。もっと健康に気を使って。私、一応平均的な稼ぎはあるから養ってあげてもいいよ。生活水準は下がるけど。だからもうそんな働き方しないで。死んでほしくないもん。仕事やめたら? 主夫にしてあげようか? 田舎に住む?」
今までこんな言葉をくれた女性がいただろうか。彼女は俺の給料を知ってそんなことを言ってるのか。たぶん彼女の給料は10分の1にも満たない額だと思う。しかし、そんなミキの言葉がタクマの心を揺さぶった。
翌月、タクマはミキにプロポーズした。夢を叶えてあげる、とミキのキャリアプランを叶えられる資金と人脈を用意した。
タクマはミキに合わせて、彼女の留学先で職を探した。その後2人とも海外で就職し、移住した。子供にも恵まれて、2人はとても幸せである。
ハイスペック男性は、いつも高揚とともに虚しさがある。金があるから女が寄る。金を稼がなければ女は消え去る。「モテるために金を稼いでるんだ!」と言って憚らないハイスペもいる。稼ぎで力を誇示したい。