猫の森が主催するセミナー『老猫専科』の授業風景
実証できないし目に見えないけど確実にあるもの。それが、猫との関係の中で、数値よりも大事なものじゃないでしょうか。それは話しかけて、聞いて、思ったことをやってみて、精度を上げていくしかないと思う。その猫はどういう傾向があるのか、どういうことをするのが好きなのか。嫌いなことがわかってきたら、あとは引き算すればいいと思います。
◆食の注意点
──老猫期の食事で気をつけるべきことは?
南里:肥満に注意することと、脱水症状になりやすくなるので、飲水量が減らないようにすることですね。スープストックを多めに作っておくとか、ボウルは床に置かず、飲食しやすいよう高さの工夫をするとか。猫はもともとちょこちょこ食いですが、老猫になると、食べたいときが食べどきです。昨日まで食べていたものに突然、見向きもしなくなることがありますから、少量・多種類を用意しておくといいですね。
食の好みを若いうちから探っておくことも大事です。お年寄りの猫が何も食べなくなったとき、好物の匂いにつられてむっくり起きあがろうとする。好きなものが生きる力になるのを何度も見てきました。そのためには鼻を詰まらせないこと。風邪をひくと食欲を喚起する鼻が利かなくなるので、注意が必要です。しばらく食べないでいたときは、好物を口元に塗って、食べる行為を思い出させるようにします。「猫の本にNGと書いてあるから食べさせない」ではなく、猫が興味を持ったものを覚えておくといいですね。うちのドドも、猫にはNGとされるシュークリームが大好きでした。たとえばウェットフードを出すとき、必ず「これとこれどっちがいい?」って猫に聞いて反応を見る。毎日のこうした“感察”の積み重ねが大切だと思います。
体調が悪いとき、動物は本能的に断食して内臓を休ませるので、そのときにはそっと見守る姿勢も必要です。また、老猫の90%がかかる腎臓病から守る食事は、塩分の強い煮干し、かつお節はほどほどにして、高品質のキャットフードを取り入れるといいですね。
──猫の便秘に悩む方も多いようですが、うんちが出なくなった場合は?
南里:ドライフードを食べていると、うんちはカチカチ、コチコチになりがちです。これはある意味、不自然なこと。うんちが固いと排便のときにかなり力がいりますが、老猫になるとさらに大変になります。うちのモモはうんちが出せなくて、力むと吐くようになったので病院で掻き出してもらいましたが、プライドが高いモモになんてひどいことをしたのだろうと後悔しました。
排便をスムーズにするには、ドライフードだけでなく、水分が70~90%のウェットフードの比率を増やしていくこと。人間にも野菜を食べないと元気が出ない人、肉だけ食べていても元気な人がいるのと同じで、猫も体質はそれぞれ違いますから、うんちが出にくかったら食事の内容を変えて、変化をよく感察しましょう。