◆医療との良い距離感は
──人も猫も長寿になり、キュア(治療)よりケア(心のこもったお世話)が重視されるようになりました。そこで悩むのが病院での治療と家での看護、どちらを選ぶかではないかと思います。
南里:動物病院では熟練したプロの適切な診断を受けられますが、家での看護は通院のストレスがなく、テリトリー内にいる安心感がある。それぞれメリットは違いますから、そのときの状況に応じてどちらがいいかを判断したらいいと思います。
野生動物は病気やけがをすると、ひとりになって安心できる場所で休み、自然が病気を治してくれるのを待ちます。室内の猫にも同じように、静かで安全で暖かい場所を用意して、新鮮な空気を入れて日光浴ができる場所を作ってあげたいものです。
生き物のからだは、不調が生じたとき、表面に炎症などを起こして病気をその場にとどめ、生きるために不可欠な頭や内臓から障害を遠ざけて守ります。下痢や嘔吐、発熱、膿や鼻水などの放出は、よくなろうと働く生命力の表れだと受け取って、慌てずに見守ることができれば、猫たちは安心して生命力を発揮することができるのです。正常な食欲、便通・排尿が戻ってご機嫌そうな感じがしたら、いい兆候です。
◆検査結果より大事なもの
南里:かつて私は、猫の健康のために定期的な健康診断が必要だと考え、ミン(21歳で永眠)の血液検査の数値が標準値を大幅に超えていたとき、療法食や高価なサプリメントを取り入れ、毎日通院して輸液をし、獣医さんの指示も徹底的に守りました。本などの情報も片っ端から試しましたが、当のミンはぐったり疲れた様子で食事はまずそうに食べ、たくさんの犠牲を強いてしまいました。今考えると、標準値にとらわれず、生活に支障がなければミンの固体値を受け入れてあげればよかったと思います。
通院にストレスを感じない猫はごくわずかです。検査をして問題を見つけることに力を注ぐより、日々の暮らしをご機嫌にしてあげるほうが健康的なのではないでしょうか。猫によってQOLはそれぞれ違って、それは毎日の目には見えないやりとりの中からわかるもの。この感覚が老猫との暮らしには検査よりも大事なものだと感じるのです。
【南里秀子(なんり・ひでこ)】
1958年生まれ。1992年、猫専門のシッティングサービスを創業。猫の生涯保障部門を14年間運営(現在は廃止)、キャットシッター育成や猫に関するセミナーを展開している。著書に『猫の學校』(ポプラ社)『猫と暮らせば』(小学館)など。