ライフ

かつて日本の花見は「ほとんど無法地帯」と化していた

昔は食中毒も多かった(写真:アフロ)

 花見は日本人が持つ奥ゆかしい習慣、のように大抵の現代人は思うだろうが、実は違った側面もある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘した。

 * * *
 全国各地で記録的な早さの満開となった今年の桜。桜の名所を通りすがると、必ずと言っていいほど楽しげな宴が繰り広げられていた。

 近年ではこの時期、食べ物にまつわる事故はほとんど起きなくなったが、いまから数十年以上前の第二次大戦以前、飲食物の販売体制や衛生環境がいまほど調っていなかった頃は、花見の時期になるとさまざまな対策がとられていた。例えば大正〜昭和初期━━戦前の新聞報道を見ると、花見シーズン直前、食中毒防止に駆け回るお上の様子が窺える。

「衛生保健のため四月上旬から同末にかけて飛火山、上野、向島をはじめ花見で人の出盛る場所の露店や銀座、新宿、浅草、渋谷等の盛り場の飲食店、デパート、ビル街の食堂に出張、食料品、飲料水又は調理場の設備を抜き打ち的に検査し不潔から起る中毒等の防止に努めるのだが昨今の気狂い暖気に準備もそこそこ五日、浅草方面のデパートの食堂その他の飲食店の調理場に出張して飲食物の保存方法、器具類の衛生状態を検査、これを皮切りに順次全市にわたり管下八十八警察署の衛生係を総動員して不良飲食物を一掃、これによる中毒患者の発生を防止することになった」(1937(昭和12)年3月6日朝日新聞夕刊※原文ママ)

 これで一文という文章の長さはさておき、例年、花見シーズンには「警視庁の保健係」が名所や繁華街にある飲食店の調理場を検査していたのだ。

 実際、当時は花見時期の食中毒が多かったようで、「一番腐敗物の多いのはラムネ、ミカン、サイダー、魚類を用いたスシ等」「某飲食店の如きは三十個のユデ玉子中十個は腐っていた」(1926(大正15)年4月14日付)というありさま。「中毒騒ぎなども一年を通じてこの花見時に一番多いこともまた当然とされ(中略)警視庁衛生部保険係(中略)は花見人に化けて公園、遊覧場所等に乗り込んで一々飲食物やお土産を買い込んできて検査する」(1903(昭和5)年4月3日付)と潜入捜査までして食中毒撲滅に乗り出していたという。

 ことは飲食だけには及ばない。そもそも当時の花見は営業免許や法的な制限のない盛り場で、ほとんど無法地帯と化していたようなのだ。

 1920(大正9)年の4月12日付の朝日新聞は「太平の春に浮れて咲く花に狂ふ人」という見出しで当時の乱痴気騒ぎぶりを伝えている。前日の日曜日、午前中だけで救護所に酩酊者が100人ほど担ぎ込まれ、両足を手ぬぐいで縛られながら「もっと注げ」と駄々をこねる男もいたという。迷子は泣きわめく横で、目覚めた酩酊者がまたも酒を飲みに繰り出していく。

 ちなみにこの様子を伝えた記事の小見出しは「放歌乱舞に正体もない十万人」「桜より人に酔ふ混沌の飛鳥山」「白日下の百鬼行」とかなりセンセーショナルに報じている。

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト