佐藤:片山さんは、世界的に独裁が進んでいる現象をどう捉えていますか?
片山:じっくり議論して安定した社会を継続するのが民主主義です。平和な時代なら議論を尽くして様々な選択を試せた。 しかし世界中でテロがひんぱんに起きている上、日本では原発事故が発生し、北朝鮮が核ミサイルを撃とうとしている。立場の異なる国家同士、あるいは政党同士が話し合って利害を集約する時間的な余裕がなくなっている。
佐藤:ご指摘の通り民主主義の意思決定には時間がかかる。その経緯に耐えられない。だから意思決定に時間をかけない独裁体制を求めてしまう。平成の終わりの安倍一強時代は、国民の集合的無意識が成り立たせていると言えますね。
片山:ただし日本人には首相公選や大統領制に対して無意識の抵抗があります。我々の無意識を支配し、独裁的な民主主義を否定するくびきが天皇制でしょう。いまの今上天皇は戦後の民主主義、平和を尊重しているからなおさらです。
佐藤:その今上天皇が来年退位されます。平成の終わりが日本の大きなカイロス(転換点)になるはずです。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO2018年3・4月号