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中国「ヘビ料理店」にバイト潜入 さばくのはけっこう難しい

ヘビ料理店でこれからさばくヘビを持つ西谷氏

 ネズミにヘビ、サルの脳……中国は日本では見られないような食材が出回ることで知られる。『ルポ中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)を上梓したライターの西谷格氏が、こうした中国の「食文化の真実」を探るため、現地のヘビ料理店への潜入取材を敢行した際のエピソードを紹介する。

 * * *

 中国の中で“メジャー”なゲテモノ料理といえば、ヘビ料理だ。では、どのように調理しているのか。広州市内のヘビ料理店に電話をかけたり、直接「雇って欲しい」と訪問したりして、6軒目でついに採用にこぎ着けることができた。

 店の看板メニューはヘビの「お粥」と「唐揚げ」。レジ横で経営者に面会し、立ったままで簡単な面接を行なった。年齢と国籍を確認されてから、「日本人だけどヘビを調理した経験はあるのか?」と聞かれたので「勉強しているところで……」と濁したところ、いきなり「よし、じゃあ早速今日から働いてくれ」と面接時間1分で即決採用された。

 厨房に入るとすぐヘビ粥の注文が入る。熱湯で湯がいたヘビをハサミでさばいて「肉と内蔵に分けるように」と指示された。いきなりのことだったが、感情を押し殺し、先輩の真似をしながら手を動かすが、細かい作業で難しい。最初は内蔵を素手で触るのは特に抵抗があったが、周囲が“食べ物”として当たり前のように触っているのを見ていると、意外と気持ち悪いとは感じなくなってきた。日本人が魚をさばく感覚と近いように思える。

 一息ついて流しの下に目をやると、大量の茶色いカエルが金属製のゲージに詰め込まれているのを発見。注文が入ると初老のコックがハサミで首から上をチョキチョキと切り落としていたが、胴体だけがバタバタと跳ね回るので、少々不気味だ。コックは小魚をさばくような手つきで、包丁を使いながら器用にカエルの皮を剥いていった。

  調理中、ヘビやカエルを恐る恐る味見をしてみると、骨張っていてパサついた鶏肉のような味がした。なんとも微妙な味である。

  そうして働くこと10時間。深夜3時、ようやく閉店となって仕事が終わった。すると、渋い表情をした社長から手招きされた。

 「あんた動きが遅いね。ヘビの扱い、慣れてないでしょう。明日はもう来なくていいよ」

 そう言って50元札(約850円)を渡された。なんと1日でクビになってしまったのだ。残念。同僚からは「一緒に働きたかったけど、社長がそう言っているから仕方ないよ」と慰められた。

  帰り際、20代の同僚と雑談した。ヘビ料理について、どう思っているのか。

 「ヘビを食べるのが気持ち悪いという人は、口に入れる時に生きているヘビの姿をイメージしているんじゃないかな。そういう相手には、何の肉かは教えずに黙って食べさせてみればいい。きっと美味しいって言うと思うよ」

 この店で働く前に市場を取材したところ、ハクビシンやアルマジロといったかつて中国で有名だったゲテモノ食材はすでに姿を消していた。このままでは中国の食文化が失われてしまうのではと聞くと、苦笑いしてこう言った。

 「文化っていうほどの高尚なもんじゃないよ。豚とか鶏とか、ほかにいくらでも食べる物があるからね。自然環境を保護するのは大事なことだし、希少動物を絶滅させてまで食べたいとは思わないね」

 ゲテモノ肉は長年、「特別なものを食べたい」という中国人の欲求を満たす存在でもあったのだろう。だが、国全体が豊かになりつつある現在では、「特別な食べ物」の選択肢は広がり、希少動物にこだわる必要はなくなった。たとえば、霜降り肉の美味さに目覚めた中国人たちは「神戸牛」をブランド肉として珍重しており、一度日本に行って本場のものを食べてみたいという人も多い。

 この10年ほどで中国人の舌は一気に国際化し、食の分野でも贅沢の幅が広がった。中国社会が豊かになるにつれ、ゲテモノ文化は静かに衰退しているようだった。

 【プロフィール】にしたに・ただす/1981年、神奈川県生まれ。フリーライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。中国での潜入アルバイトについてまとめた『ルポ中国「潜入バイト」日記』を3月29日に発売した。

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