外交ジャーナリスト・作家の手嶋龍一氏


 非核化を実現した例は、南アフリカなどを除けばほとんどなく、北の非核化の道のりは遠く険しい。加えて、予測不能のトランプ大統領が突然交渉の席を立つ可能性もある。

 北の非核化が本当に達成されるなら、会談することは意義があるが、最悪の事態を想定しておくことも国際政治の厳しい現実を考えれば必要だろう。

 トランプは穏健派のティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官を更迭し、強硬派で知られるCIA長官のポンペオ氏、元国連大使のボルトン氏を後任に据えた。この人事によって直ちにトランプ政権が強硬政策に傾くとはいえない。だが、米朝対話が暗礁に乗り上げれば、「武力による事態の打開」という選択肢が浮上してこよう。その時、「和戦」の可能性は逆転する。

◆70日まで縮まった開戦準備

 考えられる最も現実的な選択肢は、「やられる前にやれ」という先制攻撃だろう。湾岸戦争やイラク戦争のように大規模な地上軍を派遣する武力行使は、最低でも1年半の準備期間を必要とする。現在その兆候はまったく見られず、大規模な上陸攻撃でなく、今回、シリアに敢行したような空爆が現実的だろう。

 筆者は昨年末の段階では、米国の先制的空爆の可能性は限りなくゼロに近いと指摘してきた。米軍の準備が整っていなかったからだ。だが年が明けると、わずかずつだが対北攻撃の芽が出始めていた。

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